広島でも、稼ぎ時の週末に百貨店がシャッターを閉めたほか、繁華街の飲食、サービス業などが営業を自粛。工場は資材の入荷困難、販売不振などによる減産、生産休止にあえぐ。企業の資金繰りが悪化し、金融機関に融資申し込みが殺到しているという。
新型コロナウイルスの感染拡大がいつ終息するのか。いま借りる方も、貸す方も先々が読めない。売り上げがばったり途絶え、運転資金は枯渇しているが、お金を借りても「いつ返済できるのか」という不安が募る。貸す方は「貸し倒れにならないか」というリスクがつきまとう。広島市信用組合(中区)の山本明弘理事長は、
「経済危機、緊急事態などに備え、金融機関はいつでもリスクのとれる状態を整えておく責務があると思う。健全経営を維持し、平時から不良債権を徹底して処理する。そのすべては危機から取引先を守ることが一番の目的。倒産を出さない、雇用を守るというシンプルな政府方針を支えることが、われわれに与えられた最大の使命ではないでしょうか。信用組合は地域から逃げることができない。金融機関の本来業務である地域を守るという気概が求められており、つぶさに取引先、現場を訪れ、経営者に寄り添う。いまこそ、われわれが一丸となって本領を発揮しなくてはならない」
3月に2000社以上、4月上旬には5000以上の取引先をリストアップし、理事長はむろん、役員や支店長、審査部、渉外を総動員して、こちらから出向くローラー作戦を展開。取引先は、追加融資や返済猶予を申し出ることによって信用を失うのではないかという心理も働く。半世紀以上、金融業務に携わってきただけに、こまやかな配慮も欠かさない。
「バブル崩壊よりも、リーマンショックよりも、今回の新型コロナウイルス感染拡大による不況は急激で、深刻。だが、ためらい、ちゅうちょしている暇などない。こちらから取引先に出向くことによって経営者の困りごと、悩みごとを丁寧に聞き取り、当組合で的確に迅速に対応する機会をつくることが大切。雨降りに傘を差し出す。金融機関のあるべき姿の真価が問われることにもなる」
全店を挙げ、金融支援に力を尽くすよう指示。職場に緊張感がみなぎる。すでにコロナ関連の融資は4月10日時点で保証協会のセーフティネット関連も含め、65億円を突破した。融資申し込みの多い業種は飲食業、建設業、製造業、自動車修理・販売業、観光関連、運送業など、ほぼ全業種に及んでいるという。
リスクを恐れるな、と基本方針を示す。これで役員、審査部、渉外に携わる職員も含め、全員の判断、行動が素早くなる。取引先が困っているときにその対応を誤れば、組合への信頼や信用を失うことにもなりかねない。営業の最前線で汗を流していたときの経験に裏打ちされているのだろう。決して不況にかこつけてはならぬが、将来にわたって信頼を得るか、失うか、その瀬戸際に立っているという緊迫感があり、みじんも手を緩めない。
一方で、激流におぼれることのないよう、いまを懸命に踏ん張ることが、企業経営者の腕の見せどころだろう。