広島県人口の社会減に歩調を合わせるように、県外に本社機能を移した企業数が県内へ転入した企業数を上回り、2019年までの10年間で企業の「転出超過」は72社に上った(帝国データバンク調査)。47都道府県で5番目に多いという。
転出した217社のうち、移転先は東京が51社で一番多い。広島への転入は145社で、うち東京から33社。東京との間で差し引き18社の転出超過になる。やはり東京への一極集中が加速しており、県産業は大丈夫かと心配が募るが、新型コロナ禍の影響を受け、オフィスなどに居なくても働ける在宅テレワークやウェブ会議などの普及によって「賃料の低い地方への移転が増えるのではないか」(帝国データバンク広島支店)との見方もある。
コロナ禍の大打撃を受け、経済活動や働き方などが、今後どのように変貌するだろうか。これまで頑として変わることのなかった政治、経済、文化や人材、情報などの東京一極集中。こうした中央集権の潮目が変わり将来、人や企業が地方へ分散する時代がやってくるのだろうか。そんな大変革はにわかに信じ難いが、手をこまねく暇などなく、打つべき手を打つほかない。
広島県内へ移住者を呼び込むために、県が全国初の機能を搭載し本格運用を始めた「AI移住相談システム」が威力を発揮するまでに、しばらく時間がかかりそうだが、移住希望者にどのような暮らしや、働き方を提供できるのか、広島の受け入れ態勢は大丈夫か。
かつて広島経済同友会筆頭代表幹事を務め、いまも「県の人口問題はライフワーク」という特別幹事の森信秀樹さん(森信建設社長)は、
「地方創生は国をはじめ、地方行政、経済界、関係機関を総動員し、決して諦めることなく、長い、きつい坂を上っていく覚悟が必要と思う。県人口の減少は地元経済にとって大問題です」
03年に同友会の「広島県を考える委員会」の委員長を務めたのがきっかけで、県の人口問題に関心を寄せるようになった。翌年1月に「ストップ・ザ広島県の人口減少」と題し、提言をまとめた。
提言の主旨は、
「会社人間を卒業し、子弟の教育から解放された方々が余生ではなく、年金で、自分のための、自分たち夫婦のための人生を楽しむことができる新しい都市空間の創出を目指すものである。話がうま過ぎると思われるかもしれない。しかし質素で健康的な生活を目指す限りは、また少し注意深く現在の年金、介護保障、また個々のこれまでの蓄えを見直せば不可能なことではない。例えば、現在の東京一極集中から、地方、特に広島県の福山市から呉市までの瀬戸内海諸都市への転居を考えていただければ“安心”を創出することができる」
首都圏では不安であっても広島県では安心に転化することができる。既存の気候温暖で落ち着いた街並みや市民・若者と共生するニュータウン計画を紹介したいと提言の「はじめに」に述べる。
いまでも新鮮な響きがあるが、この提言が当時の藤田雄山知事の目にとまった。その後に定住促進のターゲットがリタイア層から働き盛りにシフトした経過などを次号で。