広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2022年4月28日号
捨てたもんではない

4月1日、西区商工センターの宝物産に珍しい親子二人連れが前触れもなく訪ねてきた。三次市で介護タクシー事業を営む森角さんと10歳の敬海(たかみ)くん。応対した同社営業本部エンジングループの廣田和民課長は、
「春休みの思い出づくりに、どうしてもいろんなエンジンを見たいと説明を受け、半ば驚き、不思議な気持ちでお話を聞くうち、敬海くんのエンジン愛に私の方も熱くなり、強く気持を揺さぶられた」
 毎晩、小型の中古エンジンを抱いて寝ると言う。ガソリン臭さえも心地よい睡眠に一役買っているらしい。特に20年前に廃盤となった、ロゴRobinに赤いコマドリのマークの富士重工業製〝ロビンエンジン〟がお気に入り。ネットで中古エンジンを求めては分解して組み立てる。飽きもせずエンジンと遊んでいるとか。宝物産の情報もネットで見つけ出し、大阪のユニバーサルスタジオよりも宝物産がいいという本人のたっての希望をくみ、家族の車で商工センターに乗り込んだ。
 同社が扱う小型汎用エンジンは現在、三菱重工メイキエンジン、本田技研工業、ヤマハモーターパワープロダクツの主要3社がそろう。農業用や工事用、発電機用など、用途に応じてさまざまに在庫を備えて常時、その点数は2万点を超える。早速、敬海くんを部品庫に案内すると、目を輝かせて棚から棚へ小さな体を弾ませ、こちらから説明の必要もないほど数々の部品の知識を披露してくれた。
「廃盤とはいえ現役で活躍するエンジンはまだ多い。中古部品の需要も途絶えることなく広く出回っている。敬海くんお気に入りのコマドリマークにいたってはその機能と構造もしっかりと理解し、大人顔負けの知識。将来はユーチューバーになりたいという子どもが多いご時世に、こんな小さな子がエンジンに心底興味を持ち、実体のあるものづくり社会へと進路を選んでくれれば日本も捨てたものではないと、うれしくなった」
 動力源が化石燃料から電気に変わろうとしているが、敬海くんぞっこんの汎用エンジンは今のところは未来永劫。主要各社それぞれが得意とする分野のエンジンをそろえ、技術向上に切磋琢磨(せっさたくま)する。
 飛行機研究所を源流とする富士重工業は1917年に創設。選択と集中により56年発売のロビンエンジンから発展した汎用エンジンを製造する産業機器事業から撤退して車と航空機で生き残りをかけ、2017年にスバルに社名変更した。宝物産は建設機械販売・レンタルを主力に、産業機械、エンジン部品などを扱う。堅実な社風で創業から78年を歩み、専門商社として業界で重宝される存在という。
 その時に居なかったことを残念がる西田信行社長は、
「富士重工のエンジンだけを扱っていたが、昨日の敵は今日の友。変化の激しいビジネス世界を乗り切るためには顧客ニーズに的確に応えることに尽きる。敬海くんの話を聞いてほのぼのとした気持ちになり、意を強くした。いつか当社社長に迎える日が来るかもしれない」
 後日、コマドリが飛ぶロビンエンジンの絵をいっぱいに描いた礼状が届いた。

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