広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2022年4月14日号
次代を託す新ブランド

宮島御砂焼窯元の山根対厳堂(廿日市市宮島口)は築100年以上の工房の向かいにあった店舗を移転併設し、昨年3月のリニューアルオープンを機に「対厳堂」に屋号を改めた。初代・祖父から守ってきた窯の煙突をこの地に残したいという三代の山根興哉さんの思いが、〝山根〟の名と決別する動機となった。
 広島県の伝統工芸は経済産業大臣指定の熊野筆や広島仏壇など5品目と、県指定の宮島焼や銅蟲(どうちゅう)など9品目あったが、大竹手打刃物や矢野かもじが後継者不在で指定取り消しになった。昨年は三次人形の6代目の丸本垚(たかし)さん、宮島彫唯一の伝統工芸士だった広川和男さんが亡くなった。山根さんは、
「全国的にも伝統工芸の産地間競争がだんだんと薄れており、寂しい。広島の工芸文化の灯を絶やしてはならない。時代が求める新たな挑戦をし続け、粘り強く伝統を守っていく使命がある」
 江戸中期、旅の安全を祈り厳島神社社殿下の砂をお守りとして携え、無事帰郷すると旅先の砂と合わせ神社へ返す風習があった。その砂を混ぜて祭器を焼き、神前に供えたのが宮島焼の由来という。現在、川原厳栄堂、宮島御砂焼圭斎窯との3窯元が守る。
 対厳堂は工房併設の店舗を構えるが、昨夏からECサイトをスタート。2018年からスターバックス厳島表参道店で毎月50個限定で販売を始めた御砂焼マグカップは現在100個に引き上げ、完売が続く。ろくろ職人が一人前になるには5〜10年を要するという。生産効率化を迫られる中、これらの規格商品を安定供給できるよう、ろくろ成形を機械化する圧力鋳込み成形装置も導入。一枚一枚、宮島のもみじの葉を貼り付ける手作業にこだわった工程に、機械化を併せた分業体制を敷く。製造直販の機動力も生かして価値の高い良品を量産できる仕組みをつくった。
 一方、山根さんは展覧会で数々の賞に輝く陶芸作家の顔も持つ。その技を生かし、弥山霊火堂の消えずの火の灰を釉薬に使ったキャンドルホルダーや平和公園の折り鶴の灰を釉薬に使った香炉などを商品化。広島を発信する商品に託した〝祈り〟が力となり、国の機関から礼品や外交用などに時節、注文が舞い込む。
 宮島焼を次代へつなげていきたいという思いから山根の名と決別し、三つのブランド確立に着手。初代から三代の「山根興哉」作品を扱うブランド、贈答用などにもみじ紋をあしらった器を扱う「山根対巌堂」ブランドに加え、新ブランド「TAIGENDO(たいげんどう)SETOUCHI(せとうち)」を立ち上げた。昨秋から、おりづるタワーや平和記念公園レストハウス、グランドプリンスホテル広島、ettoなどでテスト販売を行っている。手軽な価格帯の使いやすいカップで、自家用や旅の手土産にも使ってもらいたいとの願いがあり、モダンでシンプルなデザインが魅力を放つ。
「新ブランドは瀬戸内海を視野に広域での展開を目論む。将来果たして宮島焼だけで存続できるのか、真剣に考えてきた。新ブランドが順調に成長すればメーカーとして対厳堂を承継してもらう可能性も広がる。山根の名にこだわらないで、宮島焼を残すための選択肢を優先した」
 次代へ託す思いは深い。

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