広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2023年8月10日号
仕事の価値とは

信長は人材登用の達人だったと伝わる。急ピッチで拡大した版図とともに急膨張した業務をこなすため、身分などに関わりなく家来の能力を素早く見抜き、抜擢する必要に迫られたのだろう。
 急成長企業には人材不足が露呈し、破綻するケースが多く、人材登用は会社経営の要諦という。いつの時代も、指揮官の誰もが適材適所に腐心しているのだろう。国境を越えて経済、企業経営が新たな時代へと突入したためか、仕事の価値に応じて賃金を支払う「ジョブ型人事制度」を導入する企業が増えてきた。年功序列の経営では立ち向かえなくなった危機感からか、あるいは社内から高度な人材を調達することに見切りをつけたのか、近年、大手企業が相次いでジョブ型人事制度を採用しニュースになった。
 山根木材グループ(南区出島)はジョブ型に移行して4カ月が経過した。職務内容と報酬体系を明確に定義し、ジョブディスクリプション(職務記述書)に基づいて報酬・評価・教育を行う仕組み。日本ではそんなに簡単ではないといった意見も多い中、優秀な人材を確保・定着させるため、準備期間に1年以上をかけ、慎重を期した。
 管理、営業、設計など約200個全ての職務を定義。従来は存在しなかったマーケティングの職務も設けた。SNSの運用など、ウェブ系の仕事が増えており、その仕事の価値を評価した。
 2023年4月に新卒採用した人材をいきなり新設の職務に登用。海外経験を持つ大学院の卒業生で25歳。マーケティングの知識と能力を備える。従来の人事制度は有能な人材から就職先として選ばれないといった難しさがあったが新制度で仕事の価値に見合う報酬を提示。それでも大企業より低いというが、希望の職務に魅力を感じたことが一番の動機になった。岡田宏隆専務は、
「旧ルールでは高度な能力のある人材をリクルートし、育てることも難しいといった課題があった。価値の高い仕事に見合う報酬を支払うのは論理的に当たり前。みんなが希望の職務に挑戦できる機会を広げたい」
 職務記述書は『これをやりなさい』といった具体的な行動や数字のノルマではなく、会社が求めるビジョンやミッションに絡めて、従事する人に期待することを抽象的に定めている。
「移行後のアンケートで6割を超える社員から回答を得て200件超の指摘や意見があった。今後3年間は移行期間として職務の棚卸と質の向上を図り、定着させたい」
 報酬は職務に応じて上限・下限を設定。自らのキャリア形成で必要と考える職務に自発的に応募できる「オープンポジション制度」も始め、新たなスキルの取得を奨励して上位の職務、もしくは異なる職種への挑戦を促していく。
「人事は採用、異動・配置、退職・再雇用など人の流れに対して教育、等級、評価、報酬といった施策を的確に行うことで経営理念やブランドアイデンティティを実現し、社員一人一人の輝きを生み出す仕事。さまざまな価値観や経験・能力の異なる人材が認め合い、新しい価値を生み出すことは個人、企業の成長にとって何よりも重要です。ジョブ型で社員の自己実現を図り、誰もが生き生きと働く場にしたい」
 意識改革は簡単ではない。企業文化として根付くまで根気も試されそうだ。

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