広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

コラム― COLUMN ―

2020年5月21日号
苦難を乗り越える

世界が激変した。新型コロナウイルスが猛威をふるい、日常生活や経済活動などに未曾有の苦難がのしかかった。スポーツ界へも容赦はなく、東京五輪をはじめ、プロ野球などは軒並み延期し、高校野球の甲子園大会は中止。無観客で行われた大相撲春場所のテレビ中継は、何とも違和感が際立った。
 国が示す「新しい生活様式」は人との距離を守り、人との接触機会を減らすことを求める。外出自粛要請で、テレワークやオンライン授業などが広まった。いまを乗り切るほかないが、事態の収束後、人との交流の在り方はどのように変わるだろうか。
 東日本大震災の後は、人との絆が見直されて互いの助け合いや、地域とのつながりなどが再認識された。例えば、企業では社員間の交流を深めようと社員旅行や社内運動会を復活する動きがあった。職場も、スポーツもリアルに触れ合う人と人、仲間がいるから、より大きな感動や共感が生まれるのだろう。
 広島修道大学は2016年から4年間にわたり、県内の中小企業が参加する合同運動会の実施に協力。このほど同プロジェクトの報告書をまとめた。大手はともかく、従業員数の少ない中小が単独で運動会を開くことは難しい。ならば合同でやろうと呼び掛けたところ、学習塾や印刷会社、電子機器販売、解体業などさまざまな業種にまたがり事業所数は累計85社で、延べ参加者は811人に上った。これに83人もの学生ボランティアが協力した。
 修道大が地域課題の解決策を当事者と共に探り、行動を起こす場「ひろみらイノベーションスタジオ」の一環として人文学部の菅尾尚代教授、実行委員会事務局を務めた全国健康保険協会広島支部のほか、広島経済研究所、エイパスが企画・運営に携わる。 
 運動によるレクリエーションイベントを通じて参加者の運動習慣の醸成や健康に対する意識の向上とともに、参加企業の社員間のコミュニケーションを活性化し、企業間の親睦を深めることが狙い。社会人と学生が共通の目的で同じ時を過ごし、組織を越えて産学連携の力を引き出したことも大きな成果といえよう。
 会場は修道大体育館。各企業のベテランや中堅、若手でチームを編成。全力で走り、バトンを手渡すリレーや綱引きなどに汗を流し、わっと歓声が上がった。自然と笑顔がこぼれ、仲間を応援する雰囲気もさらに盛り上がる。
「普段は話す機会の少ない同僚や他の企業の方とも気軽な会話が弾んだ。家族連れで参加し、子どもと一緒に楽しむ時間ができた」
 ボランティア学生は、
「企業の方との交流は初めてで緊張したが、優しく接してもらい、安心した。人の輪が広がり楽しさを実感できた。運動会を終え、経験したことのない達成感があった」
 会場の一体感や高揚感を生む作用があることを再認識できたという。
 事態の収束後にはオフィスワークに戻る企業が大半だろう。ただ、新しいスタイルの働き方や価値観が生まれるかもしれない。まるで振り子のように大きな社会変動には時代の揺り戻しがあり、さらに新たな発想や技術革新を突き動かす。どんな時代がやってくるだろうか。

一覧に戻る | HOME