広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2020年4月2日号
一歩を踏み出す勇気

いよいよ第5世代移動通信システム(5G)商用化へ。その主要性能は超高速、超低遅延、多数同時接続という。例えば、自動運転の実用化、スマート工場、スマートシティーの実現に役立つと期待されている。総務省資料によると経済効果は46.8兆円。AIやIoT(もののインターネット)などでスマート化を進める大企業に比べてデジタル化に立ち遅れる中小企業にとっても、この大きな技術革新の波に無関心、無防備というわけにはいかない。
 いま、広島県でデジタル技術を活用し現場の課題を解決するとともに、さらに新たな付加価値を生み出そうという取り組みが進められている。湯﨑英彦知事が提唱し、2018年度から実証プロジェクト「ひろしまサンドボックス」をスタート。砂山を作ってはならす砂場と同じように、業種・業態間の垣根を超え、県内外の企業や大学などが参画し、試行錯誤ができるプロジェクトとして中小製造業などが導入しやすい、さまざまな事業に挑戦している。
 現在、コンソーシアムでデジタルソリューション(安佐南区)が代表者を務める生産管理の見える化や、アイグラン(中区)の保育現場の安全管理のスマート化、ピージーシステム(中区)の安全な船舶運航システムの構築など9つの事業が進行中。AIやIoTを既存の事業やものづくりの現場に、ピタリと具合よく導入するためのハードルは低くない。商工労働局イノベーション推進チームの金田典子担当課長は、
「生産労働人口の減少が進む中、ITの力やデジタル化によるイノベーションが欠かせない。しかし中小企業が単独でデジタル技術を導入するのは困難がつきまとうが、ただ一歩を踏み出す勇気が大切。最終年度に入り、9つの事業のそれぞれの課題が見えてきた。試行錯誤した結果のつまずきを失敗とするか、成果とするか。判断次第で次の課題が見えてくる。失敗を新たな知見と捉え、オープンに共有することに意義がある。異業種間の化学反応を期待するとともに、そこで得たナレッジを活用する。参画メンバー自らの力で継続し共創できるようサポートし、挑戦しやすい環境づくりも考えたい」
 2月には、道路施設の維持管理等の課題解決へ行政提案型で募った、法面崩壊の予測など3テーマに8件を選定。AI技術などを駆使し、コンソーシアムで実証に挑む。また、デジタル技術などリソースを提供できる大手企業などがパートナーとなって後押しする実証プロジェクトは8テーマに41社が選定された。例えば、NTTドコモをパートナー企業に、新型コロナウイルス感染を防ぐため無観客とした、3月15日のカープ対ソフトバンクのオープン戦で5Gネットワークを介し、ライブ映像配信クラウドシステムによる臨場感あふれるリアルタイム動画視聴を実証。
 さらに、実証プロジェクトと並行してコンペ方式のAI人材開発プラットフォーム「ひろしまQuest」をスタートさせ、AI人材の集積にも乗り出した。
 これまでに鍛え上げてきた経営手腕に加え、時代を見抜く眼力と技術革新がそろえば鬼に金棒。一歩を踏み出した先に、大きなヒントが隠れているかもしれない。

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