いつ、誰に経営を任せるのか。既に後継者がいる同族企業などはともかく、経営の第一線から退こうとしても、周りに経営を引き受けてくれる人が見当たらない。生涯を懸けた会社を残したいが、自分自身の年齢や健康状態などを考え、やむなく廃業に追い込まれるケースが多いという。そうした廃業を未然に防ぐ手はないだろうか。
人材教育や企業内研修などのウーブル・ロールモデル研究所(中区大手町)は県の事業承継ネットワーク事務局(当時。4月1日付で組織統合)の委託を受け、経済産業省のプッシュ型事業承継事業としてユニークな二つの事業承継モデル講座を計画する。
その一つ。経営者のための「セカンドステージモデル」講座は、第2の人生を謳歌(おうか)している事業主の事業承継プロセスを紹介する動画をウェブで公開。事業承継支援ネットワーク拠点で、自由にその動画を視聴できるようにする。経営者に豊かなセカンドライフを促し、健全に事業を引き継いでもらうために、まずは経営者が適切なタイミングを計り、現役を退くことが大前提という。
もう一つ。後継者予備軍向け「後継者マインド育成」講座は、起業や経営に関わりたいという意思のある人を対象に、承継可能な事業主の商品やサービスの紹介ほか、経営者としての心構え、スキルを習得する狙いがある。同研究所社長の十倉純子さんは、
「経営を誰かに譲りたいと考えている人、一方で経営に意欲のある人や起業を考えている人の双方が、その第一歩を踏み出すためのきっかけをつくり、経営の譲渡受の間をつなぐ仕組みが必要。そのときに手遅れにならぬよう、できるだけ早く事業承継の準備に取り掛かることが大事」
十倉さんは20歳代で人材派遣会社の広島営業所長を務め、通算200人以上の採用や人事、営業、教育を担当。その経験を生かして独立し、1993年に人材派遣事業や社員教育の(有)フュージョンを設立した。97年に株式会社化後は 十数億円を売り上げていたが、思うところあってM&Aにより会社を売却。後に人材教育事業だけを買い戻し、2007年に同研究所を立ち上げた。人材教育に長年携わる中で、企業の事業承継の実態に触れる機会も多く、さまざまな事例を見てきた。
「一代で事業を築いた創業者の中には自らの成功体験に固執し、なかなか新しい分野、経営革新に踏み出せないケースもあります。いま一度、自社の事業内容を仕分けし、将来を期待できる分野か、あるいは新たな方法で再生できる事業なのかを見極めながら、後継者へ引き渡す経営環境を整えておく。そして自分自身は第二のステージへ進む決断も必要ではないでしょうか。経営者の一番大きな仕事と言えると思います」
広島県内の企業の後継者不在率は70%を越える。その大きな仕事を成すタイミングこそ重要。経営者のセカンドステージに着眼し、例えば「会長の会(仮称)」を立ち上げ、共通の経験やノウハウなどを生かして社会との有効なつながりを生み出していく事業プランなどを提案する。人生100年時代へ向け、将来性の高い事業を継続、発展させていく新しい発想の知恵が求められているのだろう。