広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2024年2月1日号
印刷、紙媒体の復活へ

同じ写真なのに、それを印刷する紙質によって、見る人に与える印象が変わる。これまでベテランの感覚に頼ってきた「紙を選ぶ基準」を数値化できないか。今年12月で創業105周年を迎える総合印刷、企画、デザインの中本本店(中区東白島町)が新たな挑戦を始めた。
 昨年4月から中国地域創造研究センターの「質感色感研究会」に参加。広島国際大学と同センターの協力を得て写真印刷の評価実験を行った。複数の紙に印刷した同一の写真を見て、つやつや、あざやか、シャープ、目立つなど、16種類の表現に最も当てはまると思うものを選ぶアンケート調査を実施。社員26人の有効回答を基に紙の質感、色感などによって異なる印象を分析し、5段階で評価したチャートを作成した。
 例えば「優しい」イメージにしたい場合はあたたかみ、しっとりとした印象の数値が高い紙が適切-といった提案の根拠をチャートから割り出す。これまで印刷業界はベテラン社員の直感的、経験的な判断で紙質による差異を言語化していたが、若手の営業担当も説得力のある紙選びの提案を、可視化して示すことが可能になった。
 その研究成果を昨年12月9日、日本人間工学会中国・四国支部大会で発表した。同業他社へも共有することで業界全体の提案力を高め、近年インターネットや動画などの新しい媒体の台頭に押されてやや苦戦している印刷業界、紙媒体の需要掘り起こしを促したいという。
 4代目の中本俊之社長の長男で、昨年12月取締役に就任した達久さん(33)は、
「当社は日常的に約400種に及ぶ紙を扱っている。紙質の違いは非常に繊細で、取引先にその微妙な違いを明確に伝えることは難しい。数値化することでベストな提案を引き出すのが狙い。受注・発注者の双方に、より満足度の高い印刷の品質を高めていく。紙媒体ならではの特長、その魅力を広く、分かりやすくアピールしていく不断の努力が大切だと思う。裏方ではあるが、産業や文化を先導してきた印刷業界、紙媒体の復活に少しでも役立ちたい」
 2014年に東京大学経済学部を卒業後、三菱UFJ銀行に入行。早くから親子で得心していたという家業を継ぐため帰郷し、22年1月に中本本店に入る。銀行から印刷業界に移り、日々特訓中。
 極めて貴重な職人の技を次の世代へどうやって伝え、発展させていくのか。時代が求める経営にどう適応していくのか。技術、ノウハウを先輩から後輩へ伝承してきた老舗ならではのテーマも抱えているのだろう。
 昨年秋、50年ぶりに「全日本印刷文化典広島大会」が広島市内のホテルであった。中本社長は16年から広島県印刷工業組合の理事長を務め、広島大会委員長として東奔西走。こんな話をしてくれた。
「印刷業界はバブル景気も反映し、ピークの1991年に製品出荷額8.9兆円と成長カーブを描いていた。ところが以降、新媒体の台頭やデジタル化などによって印刷物が減少傾向をたどり、2021年度で半分近くの4.8兆円にまで落ち込んだ。ほぼ同じ傾向をたどる県の出荷額は16年で955億円。県印刷工業組合の会員数は1997年の184社をピークに、現在は119社。この間に印刷技術に関わる製版や写植会社の多くが姿を消した」
 復活の取り組みを次号で。

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