2月14日の聖バレンタインデー。オイルショック後の1970年代、不況にあえぐ小売業界が仕掛け、女性から男性にチョコレートを贈る日本特有の習慣が定着。その後はチョコレートだけでなく、さまざまな男性向け商品にまで広がり、消費を刺激している。火付け役はしめたものだろう。物が売れにくい時代に突入した今こそ、〝コト〟を仕掛けた需要掘り起こしのアイデアが、決め手という。
地元ディーラーの広島マツダは車ファン拡大へ、モータースポーツを切り口に新たな挑戦を仕掛ける。2017年結成のチーム「HM RACERS」が、今年からスーパー耐久レース1500cc以下のクラスに参戦。同じクラスのロードスターではなく、あえて多くの人に身近な小型車デミオを起用。レースは市販の部品が多く使われ、一般の人も仕様をまねしやすい。プロの走りを見て、同じ車が欲しくなる効果を狙う。松田哲也会長兼CEOは、
「デミオは販売台数が多く、裾野が広い。マツダ車で走る魅力をより多くの人に伝えられる。レーサーの能力はもちろん、整備やピット作業を含めたチームの総力が勝敗を決める。整備スタッフを多く抱えるマツダ車トップディーラーの腕の見せどころだ」
モータースポーツ振興の社会貢献を掲げる一方、新車販売効果に加え、他チームへパーツを供給する新しいビジネスの方策を検討するなど、抜け目はない。
スーパー耐久は3月23、24日に三重県の鈴鹿サーキットで開幕。中国地方では11月9、10日に最終第6戦が岡山国際サーキットである。22歳の若さでエースレーサーを務める吉田綜一郎さんは、
「小型車でも十分戦えるマツダ車特有の人馬一体の性能に驚く。チームと共に世界へ羽ばたける一年にしたい」
18年の移籍前、輝かしい戦歴を持つ。オーナーズカップのシリーズチャンピオンを獲得し、スーパー耐久で優勝を経験。師匠の佐々木孝太さん(46)はスーパー耐久の最高峰クラス優勝など多くの実績がある。松田会長は、
「17年に初めてマツダのMX‐5(ロードスター)を使う同一仕様車の世界大会の国内シリーズ『グローバルMX‐5カップ ジャパン』に参戦した。マツダ車への深い知識があり、簡単に勝てるだろうと高をくくっていたが、総合5位に沈んだ。18年は吉田選手の獲得など会社を挙げて体制を整え、第5戦で初優勝。総合2位にランクインした。予算の都合でチーム結成から2年でやめる予定だったが、熱戦を見ていると予定などどうでもよくなるほど、思いが大きくなった。いろいろな人を巻き込み、情報発信したい。チームが拠点を置く輸入車販売店『ロータス広島』でのパブリックビューイングは大いに盛り上がった。今年度のレースクイーン募集も始めた」
スーパー耐久に舞台を移すことにより、スタッフの整備技術向上も図る。1レースが最大24時間と長く、ピット作業など含めスタッフは総勢10人以上。市販に近いカスタマイズで販売店にフィードバックしやすい。情熱的な戦いは人の心を打つ。業界で整備スタッフが不足する中、チーム一丸の勇姿に憧れ、子どもらが整備士を志す呼び水になれば、コトの効果は大きい。