マツダは2019年3月期連結決算で、世界販売が前年比4.2%減の156万1000台、当期純利益は43.4%減の634億円と苦戦。中国の通商摩擦・景気減速や為替、材料コストなどの外部要因が圧迫したという。
どう巻き返すか。デザインや走行性能、静粛性などの基本要素を磨いた、新世代商品の第1弾「マツダ3」を投入し、セダンとハッチバックで年間35万台の世界販売を目指す。1月に北米、3月に欧州、4月にオーストラリアで発売に踏み切り、5月24日から国内販売を始めた。今後は中国などでの販売を控える。アクセラの後継車種で、車名にマツダを冠し「新時代を切り開く」期待を込めた。別府耕太開発主査は、
「マツダ3が該当するセダンなどのセグメントは、SUV(スポーツタイプ多目的車)にシェアを奪われてきた。経済的な余裕があればプレミアムカーか、SUVを買う。こうした声を聞くこともある。だからこそ、妥協で選ばれるのではなく、誰もが羨望する車を目指した」
走り、静粛性、環境性能、質感など、同社の先進技術を注ぎ込む。パワートレーンはガソリン、ディーゼルエンジンに加え、10月に世界初の圧縮着火技術エンジンの搭載モデルを発売する。補助モーターを使うマイルドハイブリッドも備える。人間が歩き、走るときと同じように運転時の体のバランスを保つ新構造「スカイアクティブ ビークル アーキテクチャー」や、超高張力鋼板の骨格部材を初採用。ボディパネルとマットの間にスペースを設けた二重壁構造も初めてで、遮音性能を高めた。
「開発の企画段階からターゲット層の生活の中で1台の車の存在感をどこで発揮できるか探るため、デザイナーやプランナーを連れて世界中の顧客に会いに行った。みんなで同じ瞬間、価値を共有できたことは大きかった」
デザインにもこだわる。土田康剛チーフデザイナーは、
「日本伝統の美意識〝引き算の美学〟を追求し、セダンは何ら装飾しなくても美しいプロポーションを意識した。ハッチバックは従来の常識にとらわれず、ショルダー(リアタイア上部付近の段差)を廃止。このセグメントでは過去に例がない、一つの塊のようなデザインにした」
200万円代後半までの価格設定だったアクセラと比べて、圧縮着火技術エンジンの搭載モデルだと100万円近く高くなるが、国内営業本部の齊藤圭介主幹は、
「エントリーモデルの価格はあまり上げず、パワートレーンのバリエーションを増やすことでセダン購入層から高級志向層まで取り込む。SUV人気が続く中でも主力車種の一つとして確立させたい」
1台当たりの売り上げと購入後の残存価値の向上に取り組む中、これまで低・中価格帯とされてきた同セグメントを、自ら高価格帯までの広い市場へと変革させる狙い。
大きな期待を掛ける新世代商品の第1弾をあえて、縮小傾向にあるセグメントにぶつけたのはなぜか。マツダの販売台数の半数近くはSUVが占める。25年3月期の180万台達成へ、よほどの読み、決意があるのだろう。この勝負手が世界に通じれば、一気に道がひらける。