広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2019年8月1日号
怪物の如く

軍隊の進退について、
 −疾きこと風の如く、徐(しず)かなること林の如く、侵掠すること火の如く、知りがたきこと陰の如く、動かざること山の如く、動くこと雷霆(らいてい)の如し
 2500年前の兵法書「孫子」の一節だが、今や米中経済摩擦をはじめ、やみくもに激化する世界的なビジネス戦争のただ中にある企業経営で動と静、陽と陰など、めりはりのある進退を説くビジネス指南書のようでもある。
 むろん本人は無意識なのだろうが、突如訪れて、雷のような声で話し、それからさっと引き上げる時のダッ、ダッと歩く姿は風圧さえ感じる。ここまで書くと、広島市信用組合の山本明弘理事長のことかと思い浮かべる方も多いだろう。多少は慣れてきたが、その個性的なでかい声にびっくりする。73歳にして満々の気迫や元気は、失礼ながら怪物の如くである。
 前置きが長くなったが、2年続けて広島市信用組合が日本一に立った。週刊誌「ダイヤモンド」7月6日号の特集「金融機関ランキング」によると、収益力・効率性、財務の健全性、地域密着度・融資積極性を総合評価した結果、同信組が全国146信組の頂点に。山本理事長は、
「みなさまのおかげです。毎日毎日が預金集め、融資の本業一筋。ひたすら愚直に汗を流しております。マスコミなどで取り上げられたせいか、新卒採用の応募者が約300人と、ひと頃に比べて倍増。ここ10年、職員の待遇改善などに踏み込んで実施した。昨年採用した50人のうち、今日までに一人退職。定着率は高水準を維持し、さらに女性の役席は倍以上の79人に増え、女性職員198人の約40%を占める。おごりなどないが、日本一という職場に活気がみなぎっている」
 風の如く、速やかに働き方改革に取り組み、昨年1月、広島県働き方改革実践企業認定を受ける。かつて金融機関では長時間のサービス残業が当たり前だったが、2013年4月から「入店時間は8時10分以降」を厳守。さらに業務が集中する月末・月初めなどを除き、午後5時40分退社を徹底。集中し効率を高めるほかなく、業務改善につながっているという。
 抜本的に人事制度の見直しを行った経緯は、
 ▷役職定年=14年3月では部長58歳、副部長57歳、支店長・課長56歳、代理・係長55歳だった役職定年を廃止し、60歳まで役職維持。17年4月から65歳に定年延長したのにともない同年齢まで役職維持。その年の60歳誕生日の5月25日をもって定年退職する予定だった人事部の澤田実副部長は、直前の4月に実施された定年延長と役職維持により、人生設計を上方修正。「家族皆で歓声を上げました」と振り返る。
 ▷女性の登用=13年3月末の女性役席は代理5人、係長29人の計34人だったが、翌年に初の女性支店長登用で弾みがつき、現在は34店舗に女性の役席を配置し、その人数は79人に上る。
 19年3月期決算は16期連続増収を達成し、本業の収益を示すコア業務純益94億8500万円を計上。過去最高を更新した。好業績−職員の待遇改善−好業績の好循環を引き寄せた経緯、本業特化の威力などを次号で。

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