広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2019年9月26日号
不便がチャンスになった

今や東京と広島の間は新幹線や航空機でつながり、時間的距離は飛躍的に短くなったが、1949年に創業した三建産業(安佐南区)が耐火レンガなどを販売していた頃、東京は遠く、商取引などに不便があった。レンガを納入していた大手造船所の鍛造工場担当者から「レンガばかり売っとらんと、炉をやれよ」と思いがけないアドバイスを受ける。東京の大手工業炉メーカーは技術力があっても、今すぐ来てくれというわけにはいかない。そこで三建産業に目を付け、広島に根付く工業炉メーカーを育てようという深慮遠謀があったのだろう。炉の知識、技術などはさっぱりだったが、「何でも、誰でも最初は十分なことはできんけど、習うより慣れろだ」とハッパをかける。
 同社にとって、まさに不便さがビジネスチャンスになった。炉の補修作業などをやりながら、現場に耳を傾けながら、だんだんと炉に接近していった。万代峻会長は、
「大手の工業炉メーカーは先進国の米国メーカーから技術供与を受け、速やかに技術を手にすることができたが、わが社は何もない、ゼロからこつこつと始めた。今にしてそれがよかったと思う。火の玉となり、勇気と知恵だけで立ち向かっていった先輩らの歴史がある。広島にマツダ、三菱重工、日本製鋼所などを中核とするものづくり産業が集積していたことに加え、東京から遠く離れていたことが、わが社の創業、成長期で大いにチャンスをもたらした」
 同社が誇りとする「勇気と知恵」は、長年の歳月にこんこんと育まれたのだろう。
 2019年3月期決算は売り上げ約93億円、経常利益約5億円。従業員約160人。グループ売り上げは約136億円。今期は148億円を見込む。いち早く海外展開し、技術供与や提携によって米国、欧州に進出してきたが、1997年、初めて自ら投資し、中国に合弁会社「瀋陽東大三建工業炉製造有限公司」を設立。20周年の2017年に過去最高の受注と利益を達成し、自動車アルミ鋳造分野の工業炉では中国国内トップシェアという。その後インドネシア、タイへ現地会社を展開し、全売り上げの半分を自動車関連で占める。万代会長は、
「自動車産業は参入企業も多く、いつ足元をすくわれるかわからない。過去の成功に甘んじることなく、自己否定しながら、チャレンジすることが必要だ。そのチャレンジもプロダクトアウトではなく、顧客に寄り添ったマーケットインでなければならない」
 東京電力と共同で、アルミ溶解炉のさらなる省エネ化と二酸化炭素排出量の大幅削減を目指すオール電化型浸漬(しんし)溶解炉「S−MIC」の開発に取り組み、世界的にも前例のない、化石燃料を使わない電気浸漬ヒーターからの直接伝導伝熱方式の画期的な方法を完成した。10年に初号機を日立産機システムに納入した矢先、東日本大震災が発生し、東京電力との共同プロジェクトがストップ。しかし環境対策が重視される昨今、将来的に溶解炉の全てが電気になると予想されており、S−MICの改良を進めている。創業来、先輩から後輩へ受け継がれてきたチャレンジ精神、ものづくりの魂が脈打つ、その原点となった同社「勇気の12講」などについて、次号で。

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