広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2020年4月30日号
AIがつなぐ匠の技

時には失敗して悔しさをかみしめ、腕が上がると先輩に感謝しながらようよう身に付けた技能だから、決して途切れさせるわけにはいかない。
 ものづくりの現場には安全や品質、コストに直結する特有の技が凝縮されており、みじんも油断を許さない。現場の誇りがあり、企業の財産ともいえる熟達者がいる。そのワザ、カン、コツをどうやって継承していくのか。
 AI(人工知能)を活用して熟達者の知見や技能を読み解き、見える化を図り、先輩から後輩へ、次代へ継承する取り組みが県内の製造業でも始まった。自動車部品製造の広島アルミニウム工業(西区横川町)は、AIやIoT(もののインターネット)の実証プロジェクトを推進する広島県主催の「技能継承のためのAIワークショップ」に、産業用機器や大型機械のメーカーなど4社と参加。不良対策技術や専門知識などベテランの知見を〝辞書〟として活用できるポータルサイト構築の取り組みをスタートさせた。見て、覚え、実際にやってみるという方法を今日まで踏襲し、技能を伝承してきたが、この数年来、「このままではいけない。技能を記録として残そう」という危機感が生まれていたという。熟達者が経験のない若手に、自らつかんだコツを平易な言葉で分かってもらおうとしても、なかなか伝わらないという現実が度重なっていた。過去の実績をまとめた資料はなく、古い文献を読み解くにも限界がある。全国で同社含め2社しか手掛けていない「砂型鋳造」に十数年携わる生産技術担当の福田淳二さんは、
「私は先輩から砂を使った鋳造技術のコツ、いわゆる勘所を肌で感じながら習得する時間があった。いまは作業効率化や働き方改革の流れが加速する中、メーカーの要求事項に沿って規格対応もより厳しくなっており、少しでも不具合が発生すると大変なことになる。生産者人口の減少に拍車がかかり、経営の命綱でもあるコツを若手に伝えきれていない歯がゆさがあった」
 同社は近くスペシャリストの思考をAI化し、実務適用支援するLIGHTz(茨木県つくば市)と契約する運びだ。福田さんは県主催のワークショップに参加したことにより、自らのノウハウに気付き、技能継承の大切さを改めて認識できたという。
 1921年に創業。県内中心に9工場、ベトナムなど海外に7工場を展開する。国内は2000人強が働く。田島文治社長はスローガンに「事実に忠実 誠実な努力」と掲げる。鋳造課の沖誠課長は、
「AIの活用によって安定的な良品の大量生産で生み出された時間を、どう有効に使うのか。これからはAIと共存しながら職人ならではの感覚や発想を発揮していくことが製造現場に求められるのではないでしょうか。何をなそうとするのか、その目的と志が大事だと思う」
 人の働きを機械が代行し、さらに生産効率を高めながら産業が発展してきた過程に、新たに登場したAIがどのような大役を果たすことになるだろうか。これからが本番。まさか、AIの活躍によって熟達者がいなくなってしまうことはないだろうが、AIと人の間に「誠実な努力」が重なり、互いに切磋琢磨(せっさたくま)する関係になるだろうか。

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