広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2020年7月16日号
カープと同い年

とんでもない「貧乏球団」とやゆされ、一層ファンの気持を熱くしたのだろう。1950年、念願の「広島カープ」が発足。市民から熱烈歓迎された。だが、その年の戦績は、優勝した松竹ロビンスに何と59ゲーム差をつけられて最下位。勝率2割9分9厘で両リーグ唯一、3割を切るさんたんたる結果だった。ユニホームやグローブなどの代金が滞り、運動具店を倒産に追い込む事態も生じた。選手会から、給料の遅配を解消できないなら「全選手退団する」と通告されたが、ようやく12月26日になってこれを回避する。あわや球団解散の危機だったという。
 その年から70年。プロ野球がようやく開幕した。スタジアムを真っ赤に染める熱烈な応援風景のない、無観客試合は何とも異様だが、野球のある生活が戻ってきた。波瀾(はらん)万丈のカープ70周年。優勝という大輪の花を咲かせてもらいたい。
 カープと同い年。繊維卸の十和(現アスティ)から発祥し、同社ほか、国内トップのジュエリーブランド「4℃」を擁するヨンドシーホールディングス(東京、東証1部上場)が、5月で創業70周年を迎えた。同月28日付のトップ人事で、広島銀行取締役専務執行役員だった廣田亨氏を社長・COOに起用。前社長の瀧口昭弘氏は4℃事業会社のエフ・ディ・シィ・プロダクツ社長に専任し、ブランド価値向上に取り組む。木村祭氏会長・CEOは、
「新規に出店すれば売り上げが伸びる好調な業績に潜んだ危機の兆しを見逃す、おごりがあったように思う。売り上げ拡大に反比例して最も大切なブランド価値、その希少性が薄らぐという危険な循環を断ち切り、永続的なブランドを確立すべく、長期戦略で巻き返す経営体制を敷いた。廣田社長には持ち株会社のガバナンス、瀧口社長には4℃生え抜きの得意分野で力を発揮し、一段と商品力に磨きをかけてもらいたい。いつの間にか増収増益の成功体験や、数字を求める社内ムードが広がり、みんなのモチベーションに水を差してはいなかったか。社会や消費者の変化、人の心を敏感に感じとる力と、それを製品開発や接客サービスなどにつなげる不断の努力を基本に、絶えず革新へ挑戦する社風を大切にしたい」
 国内のジュエリー小売市場が低迷する中、ターゲットとチャネルを見極めた4℃の販売戦略が当たり、独り勝ちの様相を呈していた。しかしここ数年、店舗の売上効率に陰りが見えていたという。
 若い層を中心にした4℃ファンを、さらに次の年齢層へつなげていく「大人化・上質化」に取り組み、それぞれの年齢層、購入層に合わせた価格帯、商品をそろえた。しかしその販売戦略への転換を急ぎ過ぎたことで無理が生じ、従来の主力の顧客から少し乖離(かいり)が生じてしまったのかもしれないと反省を込める。
 その挑戦によって明らかになったこともある。
「一朝一夕でブランドを創造することなどできない。大人化・上質化を目的にブランド価値を高めるには、さらに長い時間がいる。心を込めてきた、ものづくりの現場に経営資源を集中投下する」
 これまで4℃が大事にしてきた原点へ戻るチャンスとなったようだ。

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