広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2020年8月27日号
AIを使いこなす

史上最年少で8大タイトルのうち「棋聖」と「王位」の二冠を手にした藤井聡太棋士(18)の異次元の強さは、研究ツールにAI(人工知能)を活用し、なおAIの成長速度に匹敵する進化を遂げているという。AIに依存することなく、AIを使いこなす努力が源泉とも評される。
 日本の産業界はどうか。総務省の試算で、AIやビッグデータを使いこなし、第4次産業革命に対応できる人材は約5万人不足しているとの指摘もある。データを使って意思決定するデータドリブン経営の重要性が高まり、世界規模の熾烈な競争に打ち勝つことができるAI人材の育成をどう進めていくのか。いま、まさに大きな命題を突きつけられている。
 昨年、AI人材開発のプラットフォーム「ひろしまクエスト」を立ち上げた広島県は急速に進むデジタル・トランスフォーメーション(DX)を担う人材の輩出を急ぐ。コンペ形式の課題解決でAI人材を掘り起こし、必要とする企業との人材マッチングを促すとともに、県内居住者(学生は県出身なら県外可)を対象に今春、e−ラーニングコース(AI学習の実践型オンライン講座)を開設した。講座は現在、約300人が参加し、学生が半数を占める。プレ開講から多くの学生が自主参加する広島工業大学の濱崎利彦情報学部長は、
「AIにより・・・などと聞くと、あたかもできなかったことが何でもできるようにイメージされる。しかしAIを使いたくなるような難問であっても実際は既存の技術で解決可能なことが多くある。そのことを少なくとも工業系の学生ならいち早く理解しておくべきだ。データを正しく読む力、正しく認識する習慣を身に付けることがエンジニアリングの基本。データを読み解き、使いこなすためには、できるだけ若いときからしっかりとした統計学を学び、同時にAIを使ってその効果を理解できることが大事」
 ゼミ生には、ウェブから収集できる情報だけでなく、自らの研究テーマで取得した生のデータを分析させ、機械学習あるいはAIを必要とする課題かどうかを見極めるトレーニングにも取り組む。同大は教育機関として全国で初めて、県に協力しているシグネイトの法人向けオンラインAI学習プログラム「シグネイト クエスト」の提供を受け、後期から全4学部の1年次約1000人に「AI・データサイエンス入門」を必修科目に導入する。AIのリテラシーの醸成やプログラミングスキルの習得を目指すとともに、それぞれの専門分野でAIを活用しながら、最も大切な思考力を育む狙いがある。
 AIが奪う仕事、新たに創り出す仕事、両方に目を光らせながら経営全般の調和を図ることが企業トップの重要な仕事となりそうだ。
 先行き不透明な経済環境に直面し、事業の方向性や計画の見直しを迫られている企業も多い。広島県中小企業家同友会が7月に実施した経営課題アンケート調査でも切実な経営者の悩みが浮かび上がってきた。70%以上の企業がデジタル化・IT化が進むと回答。その備えをいまから始めるほかない。AIを使いこなせる人材、経営者がいるか、企業存続の生命線になりそうだ。悩む暇もなし。

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