広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2020年10月8日号
雑談力がすごい

10月15日から新聞週間が始まる。危機のとき、新聞がよく読まれるといわれるが、この度は健康や命にかかわるコロナ禍で急激に経済が停滞した影響なのか、各紙共に広告スペースは相当減ったように感じる。新聞週間の標語に「危機のとき 確かな情報 頼れる新聞」と掲げる。新聞力回復に向けた願いや、危機感があるのだろう。
 インターネットやスマホが普及し、次第に新聞、雑誌などの、いわゆる紙媒体の苦戦が始まった。果たして新聞は役に立っているのか。厳しく問い掛けてきた。新聞の役割を見詰め直すことから始め、5年前から「新聞を活用したビジネス講座」を開く中国新聞社の井上浩一専務は、
「新聞をどうつくるかではなく、どう使ってもらうか。社内横断的に若手、中堅で組織したプロジェクトチームで検討を重ね、2016年4月に企業向け新入社員研修を中心にした講座をスタート。講師陣の工夫や、新聞を活用している企業の動画を上映するなど、次々に新しい手法を取り入れてきた。最近は出前講座の要望もあり、新聞を読み、活用する若者が年々、一人一人増えてきていることを実感している」
 講座開設のヒント、きっかけが興味深い。井上専務が人事部長時代に交流が広がった地元企業幹部との飲み会で異口同音に「新入社員のコミュニケーション力をつけるにはどうしたらいいか」という悩みが次々飛び出した。はい、いいえ、わかりました、ええまぁ、などの“単語族”が横行し、なぜやりたいのか、できないのかという自らの意思を伝えきれない若者が多いと口々にこぼす。
 ここに新聞を生かす手はないか。新入社員に一番つけてもらいたい力は何か。井上専務は後日、順々に人事担当者を訪ねて新入社員への期待、要望などを聞いて回った。その結果、社会・一般常識の会得、コミュニケーション力やプレゼンテーション力向上、論理的な思考の習慣化、セールストークの参考、文章力のアップなどに集約された。
 新聞を読まなくなったせいか、近年広まったSNSの影響か。何とも大変だが、何とかするほかない。新聞に出番があると直感したという。
 文章を読む、行間を読む、想像する、知識を得る、考える。むろんストレートで分かりやすい映像情報や、手っ取り早いSNSもいいが、新聞には国内外の政治、経済、文化、スポーツ、身の回りのことなど、記者が集めた確かな情報があり、商談を離れたときの雑談の場などに大いに活用できると力を込める。
 講座は春と夏の年2回。コロナ禍で春を中止し、9月に初めてとなるオンラインで開いた。過去最多の26社・団体から69人の参加があった。カリキュラムは、社会人のビジネスマナー(オンライン上のマナー)、朝の3分で世界と日本、広島がわかる(新聞を読み解く力)、中国経済面の活用術(新聞をビジネスに生かす力)、雑談力はビジネスの基本(コミュニケーション力)、文章で差がつく仕事力(表現力)などで構成。
 ある記者がテレビ番組で「安倍前首相とトランプの会談はほとんど雑談だった」と明かした。世界を動かしたその雑談力がすごいと言えなくもない。若者よ、頑張れ。

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