広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2020年11月26日号
千年先の街

いまから431年前に毛利輝元が築城し、福島正則から浅野家へと引き継がれた広島城。豊臣時代の大阪城を模して造られたといわれており、安土桃山時代の様式を伝える天守閣は1931年に国宝に指定されていたが、被爆によって倒壊したため、1958年に鉄筋コンクリート造で外観復元された。
 その日から62年。「広島城天守閣の木造復元を実現する会」が発足した。一般的に鉄筋コンクリート造の建物の耐用年数は60年程度。このままでは強い地震などで倒壊の危機があるという。現在、広島市は文化、観光分野の有識者で広島城のあり方に関する懇談会を設け、耐震改修工事にするのか、それとも木造復元にするのか、本年度中に決める予定という。
 木造復元を実現する会は学識者、文化関係者や、広島青年会議所、まちなか西国街道推進協議会などの関係者ら有志が集まる。設立趣旨に、
「耐震補強工事はあくまでも耐震基準をクリアすることが目的で、天守閣の躯体自体の寿命を延ばすものではない。木造復元できれば、メンテナンス次第では千年以上もつ。未来にも残せるような木造で忠実に復元することにより、広島の歴史や文化を世界へ発信できる価値は大きい」
 広く市民の賛同を募り、署名活動を展開。年明けにも市へ要望することにしている。
 中央公園にあるさまざまな文化、スポーツ施設や、平和記念公園、中心部の紙屋町・八丁堀地区をトライアングルでつなぐ都市空間の平面的な広がりを生かし、未来へ発展を促すとともに、城下町としてたどる歴史の「縦軸」を折り込む、奥行きの深い街づくりを夢に描く。
 中央公園には旧市民球場跡地やサッカースタジアム建設予定地もある。こうした新しい施設の建設計画に歩調を合わせて、多くの市民の応援を得ながら広島城天守閣の木造復元を実現。近くに原爆ドームや平和記念公園がある。そして紙屋町・八丁堀地区にある都市再開発プロジェクトなどの進展により「温故創新」の織り成す、いい街になる。
 紙屋町・八丁堀地区の一部は特定都市再生緊急整備地域に指定されているが、大手資本の投資を誘発するだけの街の魅力がなければ、都市再開発事業なども計画倒れになる恐れがある。ここらは啐啄同時(そったくどうじ)のタイミングがあり、都市計画を進める勘所ではなかろうか。
 木造復元を実現する会の大橋啓一会長(ひろしま美術研究所校長)は、1994年8月に広島城二の丸復元工事が完成した「記念誌」に一文を寄せている。抜粋。
「二の丸の3つの櫓(やぐら)の復元工事が終わり、そこに美しい姿を見せている。改めて日本の伝統美と当時の建築様式の素晴らしさを見せつけられた感じだ。屋根の幾何学模様、漆喰の白壁と黒い下見板(したみいた)、石垣塀のコントラストが堀の水面に映し出され、風土に裏打ちされた自然の安心感は、現代に生きる私たちに何かを伝えようとしているようでもある」
 東京芸術大学美術学部工芸科専攻卒業し、1973年に研究所を設立。いまの文化庁長官は大学時代の同期。率直な思いを語り、旧交を温めたいと言う。その会の進展を期待したい。

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