広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2021年6月3日号
誇れる決断

市場拡大が当たり前だった時代から、人口減による市場縮小へ移り、新たな成長戦略が求められている。大きく潮目が変わり、かじを取る船長にとって腕の見せどころ。しかし乗組員がそっぽを向いてしまえば、たちまち荒波に翻弄(ほんろう)されてしまう。
 国内全家電メーカーを扱う広陽家電販売(中区舟入幸町)は大手量販店や家電店など全国の取引先約1500店に卸す。日高寛彰社長(52)は、
「かつての成功体験が危機を招く。いまの時代に対応できる人をつくり、育てることが先決ではないか。上司を見て働くのではなく、市場動向や取引先、現場の情報をいち早くつかみ、分析し、営業戦略を立てる。自ら考え、動くことができる環境、つまり権限と責任を持たせることが何より大切と考えた」
 素早く動いた。2019年9月に分社化に踏み切り、持ち株会社ソシオグループを設立。日高社長のほか、役員3人を事業会社4社の代表取締役社長に起用する予定。たちまち効果を発揮した。20年度グループ売り上げは、広陽家電ほか、ソフトバンク代理店事業「Crear」、家電製品企画開発の「デバイスタイル」(東京)、自社ブランド家電製品販売の「デバイスタイルマーケティング」(同)合わせて前年比17%増の34億円、経常利益は過去最高の1億5000万円突破を見込む。グループ従業員数は40人強。今期は売り上げ40億円、経常利益1億円以上を計画。自ら考えて結果に責任を持つ。日々の言動が変わった。小さな事でも、ないがしろにすることがなくなった。
 給与の評価基準も抜本的に改正。まず幹部から年間目標や課題に合わせた「年棒制」を導入し、翌年に課長クラス以上にも採用した。役員報酬には担当の事業会社の実績5割、グループ全体の実績5割を反映し、算出。そして日高社長と面談の上、最終的に年俸額を決める。事業会社の社長は親会社ソシオグループの株を保有し役員も兼務。全社の情報を共有しながら、相互に経営に関わる体制を明確に打ち出した。
 二つの経営軸を決めた。グループ全体の「純資産」を増やす。そして各自が「誇れる決断」をする。このシンプルな判断基準を定めたことで、人に依存し、人に物事を考えてもらう〝お伺い〟や、失敗したときの言い訳などがなくなり、失敗をとがめる人もいなくなった。非常に厳しい環境になり、失敗したら改善策を講じるほか、道はない。創造的に意見を語り合う。否定的な意見が出なくなった。互いに肯定的に捉える関係性が生まれた。
 シンプルな二つの軸が新しい考え方や行動を促し、持ち株会社制の根幹を成すようになったという。より高い意識を持つことで、能力もより高まるという証しではなかろうか。今後は戦略的なM&A(企業の買収・合併)に乗り出すほか、65歳以上の人が集まり経営、元気で働く事業会社の構想も温めている。
 日高社長は大学卒業後、3年間ほど電力会社関連の設備メーカーに勤める。先輩らがフル稼働できるよう朝6時に出社し事務所を掃除。持ち前の、相手の立場になって考える能力が磨かれた。新しい経営体制は、自らの体験に裏打ちされているのだろう。

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