むろん専門は経済で、政治は専門外だが、何と予想が当たった。本誌新年号の本欄で広島銀行系のシンクタンク、ひろぎん経済研究所(中区紙屋町)理事長の水谷泰之(ひろゆき)さんがズバリ、今年一番の大ニュースになった岸田文雄総理誕生を示唆していた。安倍さんの退陣後、昨年9月にあった自民党総裁選に敗れて「岸田は終わった」とさえ言われたが、まさに起死回生である。ドヤ顔の水谷さんは、
「むろん確たる根拠はなく、もしやという期待だった。だが、いまは鼻高々。予想なるものが当たることはめったにないので、こんな時くらい笑って許してください」
カープはさておき、広島の街に久々に明るいニュースが走った。
総理就任の直後、10月にあった衆議院議員総選挙は、政治分野に精通するマスコミの大方の予想を裏切り、自民党が絶対安定多数を確保。何やら岸田さんに少し余裕が出てきたようにも感じるが、これからが本番。来年7月には参議院議員選挙(半数改選)が控える。米中覇権争いの中、外交や経済などに難関が次々押し寄せており、ひるむことなく、したたかな日本丸のかじ取りを託したい。先ごろ「新しい資本主義実現会議」が立ち上がり、今後は果たして成長と分配の歯車がうまくかみ合うかどうか、景気を占うポイントになりそうだ。
今年もあとわずか。長引くコロナ禍に加え、中国の恒大集団経営危機、半導体不足、原油高、原材料価格の高騰、脱炭素化の動き、米中のきしみなど、世界の荒波に日本経済が翻弄(ほんろう)され続け、いや応なしに世界が近いことを実感させられた。
わずか40年ほど前。日本経済の黄金期ともいえる高度成長期の要因を分析し、日本的な経営を高く評価した社会学者エズラ・ヴォーゲルの1979年の著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」がベストセラーになり、一世を風靡(ふうび)した。その後失われた時代とも呼ばれる日本経済の凋落ぶりは一体どんな理由によるものか。研究所の水谷さんは、
「分析すればさまざまあるだろうが、もうこれくらいでいいだろうという日本人らしい謙虚な満足感が少なからず影響したのではないか、油断につながったかもしれない」
今年1月亡くなった作家の半藤一利氏の40年周期説によると1868年の明治維新、約40年後の日露戦争勝利、その40年後に敗戦、そして約40年後の1989年に株価が最高値を更新し、その後にバブル崩壊。周期説だと2030年まで低迷を続けることになるが、新しい資本主義で一刻も早く克服してもらいたい。その先にどんな世界が開けるのか、新しい年にその第一歩を期待。
▷今年5月、おかげさまで本誌創刊70周年を迎えることができた。ひろしま自動車産学官連携推進会議の協力を得て「10年後の広島の自動車産業のあるべき姿」を課題に懸賞論文を募り、素晴らしい力作が寄せられた。新年1月に最優秀作を発表予定。まさにここ10年、車産業は大変革のときを迎え、それを予感させる提言がそろう。大学や関係団体、金融機関トップらにお願いした審査員の方々を困らせるに違いない。今後もできるだけ多く広島の街を元気にするオピニオンを載せたい。