広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2022年1月27日号
宮島の門前町生かす

宮島の町家通りを散策すると、ひさし下の出桁を支える腕木や持ち送りの意匠など、そこここに往時の職人の仕事が見つかる。出格子の町家が建ち並び、歴史的な風情が漂う。土産店が軒を連ねる宮島表参道商店街の東側に弓状に並行し、歩みを向けると趣を変え、島民の生活がある。
 昨年8月、厳島神社を要とし東西に扇のように広がる市街地のうち16.8ヘクタールが戦国時代由来の門前町として重要伝統的建造物群保存(重伝建)地区に選定された。県内で4カ所目。東町の町家通り、西町は神社の南西側に大聖院や大願寺の門前の町場が広がり奥深い景観をつくる。
 日本を代表する景勝地として文化財保護法や自然公園法など多くの法の下、土地利用や建物形態意匠、色彩に至るまで制限があり、島に暮らす人たちもその規制に応じてきた。古来、弥山を神体山として居住はご法度だったが、推古天皇元年(593)創建とされる厳島神社が平清盛の庇護の下、大きく発展。海上交通の要衝として栄え、大内や陶、毛利ら群雄割拠に明け暮れた戦国期に、いまの門前町が現れ始めたという。島で生まれ育った宮島地域コミュニティ推進協議会の正木文雄会長(正木屋代表)は、
「歴史的な町並みを文化財として保存する重伝建の選定は当時にタイムスリップする町並みづくりのスタートと捉えており、観光や産業振興にもつながる。しかし、これからが大変。昨年7月、伝統技術を継承すべく伝建宮島工務店の会が設立した。島全体が国立公園。厳島神社や原始林など島の約14%が世界遺産で、自然美を維持保存する風致地区という特殊な土地柄。住んでみないと宮島のことは分からないと思う。一方で空き家が増えている。島全体の調和を大切にしながら関係者ら多くの力を借りて貴重な価値を未来へ残していきたい」
 ピーク時に5200人を数えた島民は市と合併した2005年には約2000人に半減し、今年1月1日付で1452人。高齢化率は48%。過疎地域でもある。重伝建地区内に住宅が約560棟あり約750人が暮らす。島外に住む所有者も少なくなく空き家が増えている。
 合併前から今後の宮島のあり方を模索。重伝建地区の先進地視察などを重ね、町並みを生かす島づくり計画を01年に策定。04年に町家調査をし、外観は変わっても内部は当時のままという建物が数多く判明。有識者らから保存の価値が指摘された。20年9月に宮島エコツーリズム推進全体構想が中国地区で初めて環境、国交など4大臣認定。自然や文化歴史の価値を守りながら生かす工夫やシステムづくりが決め手になった。
 町家通りにある宿の厳妹屋(いつもや)は県外から移住した若者が切り盛りして13年目。100年前のしつらえに欧米客の人気も高いという。10年に宮島土曜講座を始めた広島工業大学は学生らが町家の活性化に向けて活動中。少人数やファミリーで訪れるケースも増えており、重伝建選定によって多様に楽しめる観光の可能性が広がりそうだ。
 市は宮島の空き家管理や総合相談窓口を担う島づくり組織の準備会を22年中に立ち上げる予定。歴史から未来を見通し、次代へつなぐ責務は重く、多くの楽しみがある。

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