広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2022年1月20日号
ぶっちぎりの短納期

金属加工品製造の内海機械(府中市)は昨年12月、キャッチコピー「ぶっちぎりの短納期」を商標申請した。新規開発の工作機械の試作品や部品の破損、損失など少量の発注に原則、3日以内に納品する目標を掲げており、業界の〝駆け込み寺〟と呼ばれている。内海和浩社長は、
「知りうる限り、短納期で負けたことはない。さらに同業他社を圧倒するスピードをもって〝ぶっちぎり〟1番の心意気と決意を込めた」
 短納期の秘訣は何か。父滋之さんの後継として3代目社長に就いた2007年ごろはどこにでもある町工場。不良品が発生し、納期も遅かった。現状のままでは生き残れないと考え、改革に着手。さっそく事業計画を策定し、整理・整頓などの5S活動に加え、3定(定品、定位置、定量配置)の徹底に乗り出した。
 50本以上ある切削工具は、太さ別に壁掛けで定位置を用意。ガムテープ、メジャー一つにいたるまで置き場所を決めている。移動のムダが発生していたマシニング作業では、市販品の大きなツールボックスを廃止し、専用棚を増設。工具を取りに行く手間を少なくし、3定の徹底で整然とした見た目に加え、扉や引き出しを〝開けて取る〟などのひと手間を省いた。工具や部品が入った引き出し棚は極力撤去し、工具はすぐに使えるように壁掛けとした。原則1週間以内に使うものだけを周辺に置き、当面使う予定のないものは倉庫へ。3カ月以上使わないものは廃棄し、その総重量は9トンに及んだ。
「環境整備によって、品質に対する責任や納期に対する意識が高まってきたことを実感している。毎工程の1歩、1秒のムダでさえ、年間に換算すると相当になる。こうした追求を積み重ねた結果、生産効率は30%アップした」
 人材の採用、育成にも力を入れる。従業員数14人だが、ここ数年は大卒者を採用。今春は広島修道大学商学部の学生が入社する。エンジニアは旋盤やフライス、溶接、研磨など各種工程を一人で担う「多能工」を推進。入社1年で玉掛け、クレーン、ガス溶接、フォークリフトなど10の資格取得を支援する。人材育成では日常業務を通じて会社の姿勢や考え方を伝え、社員研修やOJT、社外講習なども充実。仕事がしやすいよう常に考える人材を育てる。
「大手も採用に苦戦する中、どうやって募集しているのかと驚かれることが多い。中小企業の魅力を徹底的に訴求していくことに尽きる。福利厚生では大手にかなわない。しかし仕事のやりがいや幅広く経験できるなど、明確な目標を持って成長意欲にあふれた人にはうってつけの職場だと自負している。いまでは社員が率先垂範で採用に動いてくれるようになった」
 2020年に経済産業省の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定された。いまはDX(デジタル変革)に取り組み、スマートファクトリーを掲げる。2年前から府中市の産学官連携推進事業で生産工程をIoTで可視化し、AI分析。ビッグデータからボトルネックを見つけ出し、段取りロスなど普段気付かない非効率にもメスを入れる。日本のものづくり現場力が高まればと見学者を常時受け入れる。「ぶっちぎりの短納期」の道は果てしない。

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