スマートフォンなどの一つのインターフェイス(境界)から複数のサービスへ接続することが加速している。企業のサービスだけではなく、国や自治体、商取引から医療や介護、農業、工業までありとあらゆる分野が平等につながり始めている。サービスの提供者は受益者目線で自社のサービスを見直し、他のサービスと対等に横でつなぐ発想がなければ、待っているのは自社サービスのガラパゴス化なのだ。さまざまなものに接続できるスマートフォンが、接続できない商品、サービスを駆逐してきたことを目の当たりにしている。
広島の自動車産業のあるべき姿はどうか。自動車やモビリティもまた、ある分野、技術に特化し、さまざまな業界や業種と連携、接続することが可能で、世界と戦える「グローバルニッチトップ技術」を深化させることに尽きる。それは安全品質の高い車体製造技術かもしれないし、美しい自動車のデザイン性かもしれない。または、もう自動車とは関係ない製品の製造技術かもしれない。
その選択は慎重に考え、決断する必要があるが「全てをやる」という戦略から「集中する」という戦略への転換を広島全体の戦略として実行する。そして、その先に特定の技術、領域において世界から求められる自動車産業が広島に存在している。それがあるべき姿ではないだろうか。
一点突破の戦略はとても大きなリスクを抱えている。基本的な企業の生存戦略としてはいかにリスクを分散し、あらゆる環境変化に対応できる体制を広く構築することが正しい。しかしそれでは世界の競争にはとても追いつくことができない。そこでもう一つの提言は、産学官金が協力するオール広島で広島の自動車産業だけでは足りない技術やサービス、資金、アイデアを補うオープンイノベーションを実行する。
地域が総体になり、地域にある資源(人、モノ、金、時間)をどこへ集中的に投下していくのか。地域の永続的な発展をどう促すのか、それを一人一人自分事にして考え、正しく知り、正しく伝え、正しく行動すべきだ。従業員が一人のスタートアップの社員でも、従業員が3万人を超える大企業の社長でも同じ平等の仲間なのだ。
自動車産業をはじめ、広島の産学官金の組織は秩序を乱してしまう他所(よそ)者、若者、馬鹿者と呼ばれるイノベーター(イノベーションを起こすことを志す者)にチャンスと権限を与え、他地域からの知識や経験の導入、若い人の前のめりの挑戦意欲への支援、周りの空気を読まずに独走し、ムーブメントを起こせる者への後押しを行っていただきたい。彼らをリーダーとしてたたえ、しっかりとフォローしていくことで広島にイノベーションの気運を醸成することを始めるべきである。
異質なものが混ざり合うことによって化学反応が起きるのは人間も化合物も一緒である。この混ざり合うチャンスを広島のいたるところに創っていくべきだ。自動車産業関係者だけではなく、あらゆる業界から志を持った人々が集い、明日の広島をどうしていくべきか、いままさにすべきことである。以上が尾上さんの提言の骨子。マツダの歴史にも触れている。−次号へ