広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2022年2月24日号
不死鳥のごとく(下)

明日、広島を支える産業は何か、現在の自動車産業と産学官金は一緒に何ができるのか、熱をもって話し合おう。個人や一社だけの知では到底勝ちきれない時代になった。集中と「オープンイノベーション」でこの難局を乗り越えていこう。誰かがやってくれる、ではなく、俺が、私が広島を変えていくのだ、という一人一人の精神こそが大きなイノベーションにつながることは間違いない。
 最後に、過去、広島の人たちは何度も倒れては立ち上がってきた。幾度となく過酷な危機を乗り越えてきた。そのスピリットは確実にわれわれに脈々と受け継がれている。われわれは一人ではない。さまざまな人と話し合ってみよう。対話と行動こそ最初の第一歩−。と締めくくる。
 一点集中のトップ技術開発の戦略と、その一点集中によるリスクを回避するためのオープンイノベーション。さらに広島人のチャレンジスピリットを重ね、どんな革新が飛び出してくるだろうか。尾上さんの提言はふるさと広島への思いが底流にあり、別項で東洋工業(現マツダ)の歩みにも触れている。
 近代の広島の発展と繁栄の歴史はマツダなしで語ることはできない。幾度も時代の波にさらされ、企業存続を脅かされてきたマツダはそのたびに不死鳥のごとくよみがえり広島を発展させてきた。広島でイノベーションを起こした革新的な企業である。コルク板や機械工具などを生産し、そこから削岩機、工作機械、小型四輪トラックの製造などを経て自動四輪車の製造へと進化している。
 また、産学官金とも密接に関わってきた。現在の南区にあるマツダ宇品工場は、県が公共工事として1954年ごろに埋め立てを行い、そのほとんどを東洋工業に払い下げている。そのおかげで広島の湾岸部に大きな生産拠点を立ち上げることができ、広島の発展に大きく寄与。金融機関からの支援が経営を幾度となく救ってきたことや、地元大学との共同研究による技術開発など、産学官金とともに歩んできた深い歴史がある。
秘密工場
 やはりマツダの歴史を語りたかったのだろう。少し横道にそれるが、世界で初めてロータリーエンジンの実用化に成功した山本健一氏(後に社長、会長)の話。東京帝国大学から海軍少尉として招集され、終戦後に東洋工業へ。設計部次長時代に軽三輪トラックの秘密工場をつくり、プロトタイプを制作。後に社長の承認を得るという離れ業で、K360の発売につなげたという。一歩踏み外すと、わが身を危険にさらす賭けだったが、敢然と革新に挑み、胸を躍らせていたのだろう。
 いま、イノベーションを起こすための取り組みが世界中で行われている。ドイツのベルリンや愛知県では一定の分野に特化した開発施設などを用意し、世界中からスタートアップを集めてオープンイノベーションの仕掛けを作る。
「世界の情勢を読み、他地域の取り組みを参考にし、広島の過去のイノベーションの経験を生かし、いまこそ産学官金が同じテーブルについて、明日のイノベーションを起こすための開かれた話し合いを始めるべきだと思う」
 残された時間は多くない。

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