広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

コラム― COLUMN ―

2022年5月19日号
業界の常識を破る

むろんワンチャンスではないが、社会人へ第一歩を踏み出す就職先の選択は誰しも慎重になる。学生の就職希望先人気ランキングを見ると、世相を反映して浮き沈みもあるが、やはり安定感のある大企業が上位を占め、中小企業の大方は人材確保に苦労を強いられる。そうした中、意表を突く企業もいる。むしろ不人気の業種なのに破格の人気を集めており、どこに秘訣があるのか、話を聞いた。
 産業廃棄物処理のタイヨー(安芸区)は毎月30人もの中途入社希望者が集まるという。しかもその半数は女性。元山琢然(たくぜん)社長(36)は、
「5年前に父から社長を継いだときに社員が大量退社。心底苦労し、言い知れぬ不安もあった。ある日、仕事を終えて社員と飲んでいると、その店で働く女性が昼間は事務職をこなし、夜も働かないと子供を養えないという話を耳にした。ならば女性が安定して働ける環境をつくれば、人は集まるのではと考えた」
 動きは早かった。敷地の一画に託児所を開く。さらにマニュアルだった清掃車は全てオートマチックに変更し、休憩室やトイレも一新。遠方から本社近くに移り住む人のために借り上げ社宅にも対応した。楽しく働く様子をSNSで積極的に発信し、デジタルマーケティングを駆使してターゲットの求職者に情報を届けるなど、戦略的な求人活動を仕掛ける。
「ゴミ収集の業務自体で他社との差別化は難しい。しかし働く人が元気で、生き生きとしていれば会社も元気になると思った。そこは大手にない中小の強みで、素早く決断し先手を打つことができる」
 丁寧に要望をくみ取り、実行に移す。今後も子ども食堂の運営や救急救命士の資格取得による社会貢献活動など、独自性のある取り組みを続けていく方針だ。
 大阪以西で警備業を営むリライアンス・セキュリティー(中区)は今期、過去最高の19人の新卒者を迎えた。広島大学や島根大学など国立大出身者を含み女性が11人を占める。2011年から業界に先駆けて始めた新卒採用の道のりは決して平たんではなかった。田中敏也社長(61)は、
「工事現場の旗振りと見下されたこともある。この会社で働くと決意したが、親から警備業だけは辞めてと懇願されて去った学生もいた。今年は内定辞退者ゼロだった。積み上げてきたことがようやく成果につながってきた」
 県内の警備業で唯一働き方改革認定を受け、3月には健康経営に取り組む上位企業500社に、大阪以西の同業で唯一認定された。コロナ禍を受け、全国同業では初めて全従業員に一時金を支給し注目された。独自の福利厚生を整え、子どもが増えるほど増額する手当て(最大3人で月6万円)や、希望する高齢者には安否確認用の24時間緊急通報装置の費用を全額補助。
「待遇改善に注力する一方、社員教育に徹底的に取り組んでいる。目指す姿を『警備業界のディズニーランド』とし、お客さま満足、感動提供をミッションに掲げる。これは全従業員に安心・安全を守るという高い使命感がなければ実現しない。崇高な意識を持ち、業界をイメージから変えてやるという強いメッセージを共有し、社員と共に先頭集団を突き進む覚悟だ」

一覧に戻る | HOME