広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2022年7月21日号
二つの技術を重ねる

5月に開業した安佐市民病院(安佐北区)の2〜5階エレベーターホール壁面を、グラスビーズを編み込んだ鮮やかな内装アート作品が飾る。横長で大きさは3×1メートル。多彩な色合いのビーズや他の素材も組み合わせ、さまざまな色柄を表現。朝方や夕方、見る角度によって光を反射し、その表情を変える。患者の治癒力を高め、その家族や病院スタッフに安らぎを与えてくれるヒーリングアートとして創作された。
 ビーズ業界の常識を覆す、画期的な技術が組み込まれているという。これまで手作業で刺しゅうし、小物やアクセサリーなどを作っていたが、同作品は全てミシンによる自動化で完成させている。
 簡単ではなかった。ビーズを製造するトーホー(西区)と、刺しゅう機メーカーの二つの技術が重なり、開発に成功。同病院の壁面はその苦心を隠し、人の心を和ます。トーホーの山仲巌社長は、
「紀元前から続くビーズの歴史が変わったと言っても過言ではない。われわれは直径わずか2ミリのガラス製ビーズを寸分の狂いもなく造る。刺しゅう機械でビーズを高速で刺し、多様なデザインを表現できるようになった。病院や福祉施設、駅や空港などのターミナル、公共建物や商業ビルなどのインテリア、サイン・ディスプレー業界向けにビーズの需要を広げていく大きな可能性を示した」
 7〜8年前、刺しゅう機メーカーの問い合わせが発端だった。中国製などのビーズは直径や穴の大きさなどが不均一なため機械刺しゅうの試みが行き詰まり、そこでトーホーに相談があった。形状にほぼ誤差のない最高級品質の「Aiko Beads」を造り、世界のオートクチュールブランドから依頼を受けるなど品質に自信はあった。
「半信半疑だったが、実現したら面白そうだという期待感もあり、先方の要望に応え続けた。当初は既存のビーズを試したが、なかなかうまくいかない。最終的には専用品を開発することに決めた。求められたのはコストと精度の高さ。そのバランスを取るのに苦労した。完成させたビーズは通常品と直径はほぼ変えず、穴の大きさを広げた。つまりガラス部分が薄い。当然割れやすくなり、製造工程の難易度は上がる。これを実現できる技術力が誇りだ」
 創業者の故・山仲一二さんは「打ち込め魂一粒に」をスローガンに、品質にこだわり続けた。1000℃を超える溶解炉で溶かした40センチほどのガラス棒を、中央に空気を送り込みながら約40メートルまで引き延ばす。出口にたどり着くまでに冷え、2ミリに切断して完成する。製造工程はおよそ30に及ぶ。その日の気温や原料の状態を判断し、調合や引っ張る速度を調整するなど、経験に裏打ちされた職人の技が現場を支える。
 2020年に専用の刺しゅうミシンが完成した。ミシンを導入した全国の刺しゅう店と連携し、営業に乗り出そうとした矢先、新型コロナ禍に遭遇。主力取引先のアパレル業界に甚大な影響を及ぼしたが、安佐市民病院の実績を皮切りに、機械刺しゅうによるビーズの新しい市場を探る。
「建て替えが進む広島駅など地元のランドマークに採用を働きかけ、広島の街をビーズで彩りたい」

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