広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2022年12月1日号
貯金いくらある

アパレル業界では珍しい、地方発の高感度ショップとして最前線の銀座に出店し、勝負に出た。セレクトショップ「PARIGOT(パリゴ)」を展開するアクセ(尾道市)は、2025年に創業100年を迎える。呉服中心に肌着、紳士服を販売しながら地元で信用を築いてきたが、1992年からパリゴ事業に着手。1号店の尾道本店を皮切りに福山、広島、岡山、東京丸の内、横浜、松山へと店舗を広げ、2017年念願の銀座へ進出。世界の有名ファッションブランドがひしめく真っただ中に飛び込み、真価を問うた。
 パリゴ1号店から30年。22年7月期は過去最高の21億4700万円を売り上げ、経常利益1億4000万円を計上。業績は右肩上がり。有利子負債ゼロの日も近いが、過去には18年連続の赤字経営で倒産の危機にあえいだ。
 創業者で、祖父の髙垣繁太郎、母の美智子、兄の圭一朗(現会長)からバトンを受け8月1日、4代目に就いた孝久社長(53)は6人兄弟の次男で1969年1月18日生まれ。早稲田大学商学部卒。91年サントリーに入り、酒類小売規制緩和への動きが加速する中、コンビニチェーン本部営業などを担当。マーケットの広がりに面白さ、やりがいを感じていたが、家族から早く戻ってくるよう矢の催促があり、96年に取締役営業部長としてアクセに入った。
「祖父と経営を引っ張ってきた父の剛士が47歳の若さで急逝し、会社は債務超過ギリギリの状態だった。実家に戻った時に母が最初に言ったのは『あんた貯金いくらある』だった。身の引き締まる思いがした」
 当時の売り上げは1億8000万円で、呉服事業が1億円、肌着や紳士服などが5000万円、パリゴ事業が3000万円。覚悟を決めて必死に働き、最初は一番ウエートの大きい呉服営業に力を入れる。あいさつも兼ねて取引先を回り、ご祝儀として買ってくれたものも含め、展示会では1週間で7000万円を売り上げた。
「約20年ぶりの増収に心が躍ったが、すぐに来年の事が不安になった。一過性の7000万円をカバーするにはパリゴ事業に懸けるしかない。腹をくくるきっかけだった」
 尾道本店の売り上げを分析すると、7割が市外からの顧客で5割は福山市、残りの2割が広島や岡山、倉敷市だった。百貨店の美容部員などファッションのセミプロたちから支持されていることも分かった。都会から田舎に洋服を買いに来てくれることに未来への可能性を感じ、同時に地元の人に認めてもらいたいという思いも日増しに強くなった。パリの一流セレクトショップに感銘を受け、熱い思いが突き上げてきた。
「尾道店の後、福山へ新規出店し、その後に尾道と福山を各2店舗体制。次第に出店戦略が軌道に乗り、商いが面白いと感じるようになった」
 売上高が4億円に達した2003年に広島市中区のアリスガーデン広場横に自社ビルを新築。融資額10億円。広島銀行がよく応じてくれたと話す。銀座の商業施設GINZA SIXのテナントのうち、いまではパリゴがフロア内の売り上げ上位。来年秋、東京へこれまでにない新しい形態の店を開く予定。全て夢から始まった。

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