広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2023年3月9日号
水面に浮かぶ展示室

全国トップクラスの建築金物メーカー、丸井産業(西区商工センター)グループは3月1日、大竹市晴海に大型複合施設「SIMOSE」の中核となる「下瀬美術館」をオープンした。アートの中でアートを観る。建物自体もアート作品として鑑賞できる斬新な意匠を凝らす。
 設計は世界的な建築家の一人で、プリツカー建築賞などの受賞歴がある坂茂氏。(財)下瀬美術館が運営に当たる。開館セレモニーで下瀬ゆみ子社長は、
「コレクションを一般公開したいと創業60周年を機に、プロジェクトを本格始動しました。創業の地で美術品を通して公共の福祉に貢献し、瀬戸内海を望む素晴らしい景色とともに、国内外のお客さまに親しんでいただきたい」
 同社創業者で父親の福衛さんと母親の静子さん、長女で三代目のゆみ子社長が50年余りをかけて収集した絵画や美術工芸品約500点を中心に展示する。初年度の来館目標は15万人。
 子どもらが元気に遊ぶ晴海臨海公園に近い敷地4.6ヘクタールを県から購入し、企画展示棟約1600平方メートルのほか、瀬戸内海の島々に着想を得たという、水面に浮いているように見える八つの可動展示室。エミール・ガレが愛した植物にちなんだ庭園、子会社ShimoseA&Rが運営するカフェ、4月に開業予定のヴィラ式宿泊施設とフレンチレストランを整備する。地元の人には見慣れた景色だが、世界で勝負してきた坂氏の設計意欲をかき立てたのだろう。遠くの山と海に囲まれた自然の風景に溶け込み、見事な華を咲かせている。
発明家の目線
 表座敷に用は無い。必要なものはウラにある。福衛さんの口癖で折々、本誌の取材に応じて特有の経営観、考え方などを述べている。
 ー戦後10年余り。細々と建材を販売していたところ、どこの建築現場でもコンクリートのスラブから天井をつるす作業に苦労していることに気付く。これをヒントに埋め込み金具を工夫して独特な丸井式インサートを開発し、1968年に西区に会社設立。作業効率が格段に上がったものの当時の建設業界では新進工法はなかなか受け入れられず、普及のため現場への直販システムを採った。これが飛躍的な発展を遂げる原点になった(74年3月2日号本欄)などの記述がある。
 営業の最前線から直接届いてくるユーザーの声に耳を傾け、建設業界の合理化と省力化に貢献したその価値は大きい。「創業の原点は新製品に在り」というシンプルな企業理念を掲げる。数々の特許、実用新案などを取得。「表座敷に用は無い」と語ったその言葉から発明家、経営者としての鋭い目線がうかがえる。業界屈指の開発力、技術力には定評があり、全国に営業拠点を張り巡らす。昨年5月期売り上げは約487億円。
地域に貢献
 美術館のロビーからは空と島々と海の織りなす景色が広がり、さざめく海の輝きや春風の匂いさえも届いてきそうだ。日が沈めば観光スポットになったコンビナートの夜景が浮き上がる。大竹の新名所として宮島からフェリーと車で30分、岩国錦帯橋からは車で25分の立地。広島広域都市圏の観光地との連携も視野に入れており、自治体や地元企業も巻き込んで地域を盛り上げていきたいという。

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