広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2023年9月21日号
食のイノベーション

起死回生のヒット商品が飛び出したのは約15年前。八天堂(三原市宮浦)は、どん底の時期も経験し、挑戦と挫折を繰り返した先に、すっと覚悟が定まった。何が何でもやってやろうという気概が湧き上がり、一つの商品、クリームパンに賭けた。その選択と集中が後に、飛躍的な発展をもたらす。
 いまは八天堂店舗として国内に19店、海外への展開も加速しており、前5月期決算で売上高41億5541万円、経常利益1億345万円を計上。2013年、広島臨空産業団地に新設した拠点工場はフル操業を続ける。10年後に節目の100周年。森光孝雅代表(59)は、
「本業を離れるな。だが、本業だけにしがみ付くと陳腐化する。この教訓を肝に銘じ、日々、食のイノベーションを通した人づくりにまい進している」
 家業90年の歩みをひもとくと山あり谷あり。そこからつかんだ教えなのだろう。
 1933年、世界的な大恐慌のあおりを受け、生活が厳しくなる中、初代の森光香さんが「人々を元気付けたい」と和菓子店を創業。二代目の義文さんが洋菓子も扱い、次第に品数を増やしていった。現代表で三代目の孝雅さんは焼き立てパン店の多店舗展開で勢いに乗ったものの倒産寸前に。量販店などへの卸売りに転換し、V字回復を果たすが競合が激化。その頃100種類以上もあったパンを絞り込み、一つの商品に集中する選択に社運を賭ける決断をした。あるものとあるもの。スタンダードなものを掛け合わせて新しいものができる。いままでにない、特有のくちどけにこだわり1年半、2008年にまったく新しい、冷やして食べる「くりーむパン」の開発にこぎ着けた。
 空輸で送った東京郊外の商店街で火がつく。話題が話題を呼び、瞬く間に五反田、品川駅などに販路を広げる。このまま地元にいると成長はないという危機感も後押し。世界を目指す夢も描く。
「事業には在り方とやり方があると思う。お題目に過ぎなかった経営理念さえも、どん底を味わって初めて本当の考え方に気付かされた。何が一番大切なのか。07年に信条『八天堂は社員のために、お品はお客様のために、利益は未来のために』、経営理念『良い品 良い人 良い会社つくり』を定めた。在り方がしっかりと確立し、やがてやり方・手段の〝食のイノベーションを通した人づくりの会社〟へと生まれ変わった」
 孝雅代表は、関東大震災をくぐり抜けて江戸時代から続く、幾人かの老舗の経営者に会う機会があった。
「総じて人、もの、お金を大切にされている。何が何でも乗り越えてやろうという気概は平時に人を大事にし、育てているかという源があり、初めて生まれてくるものではなかろうか。創業100年を見据え理念経営、高付加価値経営、有事の経営の三大方針を今期に掲げ、推進する」
 理念経営は変えてはいけない在り方、高付加価値経営はやり方、有事の経営は心構えと話す。この10年を成長期と据え、食のイノベーションを通し「商品開発」「新業態開発」のトップブランドへ挑戦する意欲をにじませる。
 臨空産業団地には工場から始まり、体験型カフェ、地産品売店(運営DMO)のほか、保育園などを整える八天堂ビレッジへと発展。従来とは一線を画す新ブランドの立ち上げも計画している。

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