広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2023年11月16日号
感動を売る

買った人が感動する商品やサービスは売れる。販売戦略の基本だが、どうすれば感動させることができるか、そのコツこそ松下幸之助の言う「価値百万両」に違いない。
 マツダは6月、長年マーケティングやブランド推進を統括した毛籠(もろ)勝弘専務が社長に昇格した。車ファンに直接、メッセージを発信する戦略を強めていく構えだ。
 11月1日付でブランド体験推進本部を新設。車の運転を楽しみ、前向きに生きる姿を描く新ブランドメッセージ「心よ走れ。」を発表した。カーライフをイメージしてもらえるよう、会員サイトでオーナーの声を紹介。車やモータースポーツの楽しさを伝えるための新会社を設立する予定だ。本社を一般開放して交流する「オープンデイ」はコロナで中断したが、来年から同様の催しを再開する方針。
 11月4、5日に岡山国際サーキットで特別協賛する「マツダファンフェスタ」が開かれた。前年より約1000人多い5406人が来場。ロードスターのパーティレースをはじめ、サーキット・トライアル、参加型燃費耐久レース「マツ耐」、RXー8のワンメイク走行会などに大歓声が上がり、大いに手応えを得たという。ラジコンカーやバーチャルレース体験などで子どもが楽しめる催しもそろえ、家族を巻き込んだ。
 同フェスタは2012年に岡山で始まり、宮城、静岡へと拡大。マツ耐の参加車両は当初の8台から今回で79台に増え、2日に分けるほど盛況だった。毛籠社長は、
「ファンやロードスターオーナーが各地で参加型の各種イベントを主催してくれ、ありがたい。こうしたマツダへの応援は魅力的な車の開発で応えるほかなく、身が引き締まる。〝移動体験の感動〟を生むことが至上命令。デジタルやバーチャルが普及する中、ファンフェスタのような場を提供することでリアルな体験のとりこにしていく」
 近年はeスポーツの観戦者が年々増え、リアルレースと相互にファンを呼び込む構想を描く。昨年10月のeスポーツレース大会の成績上位者をリアルのレースに招待。ステアリングやアクセル操作など、ゲームで培った技巧を披露し、パーティレース3戦目で優勝する人もいたという。ファンフェスタ当日のレースでも走行した。
 21年11月に「マツダ スピリット レーシング」を結成し国内屈指のレース「スーパー耐久(S耐)」に参戦。eスポーツやアマチュアからもS耐へ出場できる選手の育成をもくろむ。カーボンニュートラル燃料でロードスターなどを走らせ、開発にフィードバックする。チーム統括の前田育男エグゼクティブフェローは、
「スローガンは共に挑む。挑戦する人を応援し、モータースポーツを通じて車を好きになってもらう」
 来年1月に4代目ロードスターの改良モデルを発売。齋藤茂樹主査は「過去最高の仕上がり」と胸を張る。ロータリーエンジンを発電機に使うプラグインハイブリッドにも話題が集まった。トークイベントに登壇した上藤和佳子主査はキャンプで調理器具に給電できるなど、暮らしに使いやすい点を強調した。
 ユーザーのカーライフ充実を主眼とした情報発信に力を入れる。値上げにもかかわらず販売台数を伸ばし価値訴求の販売戦略が当たった。毛籠社長にとって初年度の中間決算は売上高、利益共に過去最高。好スタートを切った。

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