来年4月、障害のある人への「合理的配慮の提供」が事業者に義務化される。例えば飲食店で車椅子のまま着席できるように備え付けの椅子を片づける、段差に携帯スロープを渡すといった対応の一方で、本来の業務を超える食事介助などの過度な負担は対象外。その場の判断が難しそうだが、大切なのは相手を知る努力と、対話を通じた解決策の検討という。
県パラスポーツ協会は9月30日〜10月1日、障害の有無に関わらず誰もが楽しめる「インクルーシブ・スポーツ・フェスタ広島2023」を初めて開いた。東京五輪・パラリンピックなどで高まる機運を一過性にせず、広く知ってもらおうと企画した。東広島市の運動公園をメイン会場に、周辺の呉、竹原、三原、三次市、大崎上島、世羅町で16競技の体験会などがあった。同協会会長を務める山根恒弘さん(ヤマネホールディングス取締役会長、81歳)は、
「障害のある人を対象とした障害者福祉という考えから、さらに深く踏み込み、あらゆる垣根をなくして共生社会をつくりたい。スポーツ用義肢などを装着した障害者と同じフィールドで汗を流すインクルーシブ・スポーツの果たす役割は大きい。広い視点で見ると、健常者を含めて全員に他人と違う個性がある。相手の立場を理解しない〝自分勝手な区別〟が、社会に疎外や排除を生んでしまう」
フェスタは走り幅跳びの中西麻耶選手やボッチャの古満渉選手、やり投げの白砂匠庸選手、車椅子バスケの香西宏昭選手ら日本代表パラアスリートをはじめ、地元プロチームの現役選手やOBが来場。障害のある人の家族や友人、職場の仲間、ボランティアや観客などを含め約3000人が参加し、トークイベントや競技体験で一緒に盛り上がった。来年以降も、県内を四つのエリアに分けて順次開催する考え。
山根さんは広島大学工学部在籍時に体育会ヨット部の設立に携わった。2004年から県セーリング連盟の会長を務めており、市スポーツ協会会長なども経験。
「18年に、誰でも操船できるように考案されたハンザ(ヨット)の世界大会を観音マリーナに誘致したことが思い出深い。11人の重度障害者が5日間のレースに挑む姿に感銘を受け、特別に表彰しようと思い立った。ところが、国際団体の役員から『オールワンだ。区別するな』と諭された。そのとき、インクルーシブの意味を真に理解した」
地場大手の住宅会社を長年にわたり経営。家造りだけでなく、健康な暮らしを続けてもらうための介護事業まで一貫し、ライフパートナーとして住む人の「豊かな暮らしづくり」を重視してきた。
「現代社会は、何事も経済的な指標の前年対比で判断しがち。物が増えて本当に豊かになったのか、ふと疑問が湧く。世界人口は100年前から4倍強の80億人に拡大したが、それに比べると寿命の伸び幅は極めて低く、一人一人の人生に目が行き届いていないように思う。例えば障害者や後期高齢者が車を運転しないことは当たり前ではなく、自由に移動できる技術を生み出し普及させることが正しい在り方だろう。利益だけを追求してはいけない。競争ではなく〝共生〟の観点は今後、企業姿勢としても問われてくるのではないか。インクルーシブ・スポーツを通じて、こうした考えを芽吹かせることができると信じている」