広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2024年3月28日号
窮地で会社起こす

27歳の時、リフォーム会社の社長が夜逃げを図り、残された社員は自分一人。血相を変えた代金未払い先の職人に囲まれ、逃げ道はない。とっさに、私が独立して仕事を回すと繕ったものの、誰も相手にしてくれない。だが、必死な姿を信じてくれたのか、たった一人の塗装職人が応じてくれる。切羽詰まって、どう振る舞うのか、その後の人生を大きく分けるターニングポイントになった。
 その日から約30年。住宅リフォーム業界で地場トップに成長を遂げたマエダハウジング(中区八丁堀)の前田政登己社長(58)は、
「誠意を除くと何の取り柄もない。退路を断って懸命に働くほかなかった。会社を絶対に潰してはならないと心に誓った」
 1993年に個人創業。自分に厳しい営業ノルマを課した。手製のチラシを何百軒、数千軒にわたり配り歩く。徐々に軌道に乗り95年に法人化。初めて人を採用し経験者2人が加わったが、次々と会社の売上金を横領された。さすがに心が折れ、人間不信になりかけたと明かす。しかし子どもの頃、ぜんそくで苦しむ背中をさすって励ましてくれた母の言葉が浮かんだ。どんなにつらくても、昨日より今日はきっとよくなる。
「しっかりと管理できなかった私に落ち度がある。経営理念を伝えられていなかった。窮地に立つと真っ先に顧客の顔が脳裏をよぎる。信用して仕事をくれた人を裏切ることはできない。何のために経営しているのか。リフォームを終えて、いかにも晴れやかな発注者の表情を見るために力を尽くす。人の喜びを自分の喜びとする価値観を共有できる仲間を増やしていきたいと痛切に願った」
 新卒や未経験者中心に採用を進め、一人一人に考え方を伝えた。信頼し任せると業務改善の工夫や新しい発想が生まれる。生産性向上につながり、働き方・働きがい改革やリスキリングなどに取り組む素地ができた。
 協力企業の会でも積極的に勉強会を行う。2023年12月期売上高は約10年前から2倍の21億円に増え、関連領域の不動産、施工の2社合わせ29億円を計上した。
 いつもスッと背筋を伸ばし相手の話をおだやかな表情で聞く。181センチの長身だが、威圧感は受けない。
「1件のリフォームから始まり不動産や相続相談、子どもが結婚したときには新築などと、人生の折々に声を掛けていただく。その信頼を糧に仕事の幅が広がってきたように思う。経営環境は時代の潮流に大きく影響されるが、決して変えてはならないものがある。地域密着に徹し、予想さえできなかった変化にも柔軟に対応することができるコングロマリット(複合企業体)経営を目指している」
 工場内装やオフィスの営繕に強い会社の買収でノウハウを磨いたほか、リフォーム時に発生する不用品処分などの需要を見込んで貴金属・ブランド品買い取り店の経営を引き継いだ。昨年は新築戸建てブランドを譲受。住まいと暮らしのワンストップサービスを掲げ、M&Aを展開。人口減に伴う人手不足の加速を見越し、人材派遣業にも乗り出した。
 グループ6社の前期売上高は42億6800万円。従業員165人。2030年に向けて高々と旗印を掲げ「グループ10社で300人、売上高100億円」「地域で輝く100年企業」の夢を描く。

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