広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2024年3月21日号
褒め合う職場

父親の体調不良を知り、病院向けテレビレンタルの先駆けだった家業を継ぐと決心。商社勤務から転じて1994年に帰広し、事業経営の世界へ踏み込んだ。
 保育サービス事業を全国展開するアイグランホールディングス(西区庚午中)の重道泰造会長兼社長(59)は当時29歳で、家業は従業員5人、年商5000万円だった。その後は奔流のごとく一瀉(いっしゃ)千里に事業を拡大し、2023年12月期決算で売上高213億円を計上。幾度かの危機を乗り切り、ちょうど30年で大台突破を果たした。
 01年に新規参入した保育サービスは北海道から沖縄まで病院内を主力に全国約500園を受託運営する。今期は児童発達支援事業、フィットネスジム運営などのグループ経営を加速し、売上高222億円を見込む。
 商社時代に海外を飛び回った経験をヒントに始めたスーツケースレンタル事業が順調に伸長していた矢先、米国同時多発テロが起き、注文はゼロ。雇用を守らなければと新規事業を模索する中、激務にさらされる医師や看護師を支える「院内保育」の雑誌記事に目が留まる。子どもの頃、夜遅くまで働く親が家にいなく、寂しい思いをした記憶も保育という分野へ意識を向かわせた。やがて「子どもを預ける保育園がなく働けない」という待機児童の問題が表面化。事業所内保育園の全国展開に乗り出した。
 0〜5歳の未就学児約1万2000人を預かり、20〜70代の保育士約5000人が働く。子どもの命と向き合う保育士が安心して働き続けられるよう細やかな配慮を怠らない。病気やケガで長期に離脱しても所得の喪失分を最長、定年まで補償するGLTD保険に加入。保険適用を受け、安心して療養しながら早期復帰を目指す人もいるという。
 サラリーマンより事業経営に向いていると確信があったのではなかろうか。相手の立場に立って考えることができる。人の役に立つ。そうした経営者の資質に加え、ケインズのいうアニマル・スピリッツをもって挫折さえも飛躍の原動力とした。
 いま待機児童は減少傾向に転じ、従来ペースで保育施設を新設する必要がなくなりつつある。一方で、財政の制約や保育ニーズの多様化などを受け、自治体が推進する公設民営化の受け皿として、これまでの実績を糧に全国へ働きかけていく構えだ。
 人と人が真剣に向き合う職場だけに、人間関係のずれから保育士が辞めていくケースを幾度となく経験。数年前からは全ての園で昼礼タイムに「ありがとう」の言葉を掛け合う習慣を根付かせた。
「働く者同士それぞれが良いとこ探しをして、お互いに褒め、感謝し合う。そういう関係が日頃から当たり前にある職場となるよう、みんなの心を通わせることから始めたいと思った。安心感と自信、誇りが生まれてこそ気持ちよく働けるのではないだろうか。子どもが家に帰り、ありがとうとまねる。親から驚かれ、感謝されることが増えた」
 21年春から全国展開する児童発達支援事業も本格化してきた。FC運営する24時間フィットネスジムは福利厚生の一環で受託園の集積地を対象に15年から出店開始以来、30店に増え、平均会員数1000人以上と加盟店中トップを走る。グループ年商1000億円を目標に描く。
 選んだ道は成功するまでやり抜く。肝も据わっている。

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