広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2024年5月16日号
情熱と使命感

日本に居る限り地震を避けることはできないが、人の命と暮らしを守る防災、減災に万全を尽くす使命があると言い切る。劣化が進むコンクリート構造物の健全化と長寿命化に心血を注ぐSGエンジニアリング(西区草津東)の加川順一社長は、
「コンクリートは高速道、ダム、橋、マンション、ビルなどに使われて日本の骨格を支えてきたが、長年の風雨にさらされるうち、表面だけではなく内部にひびが入り、もろくなっている。到底このまま放置することはできない。コンクリートを補強するIPH工法(内圧充填接合補強)を全国へ普及し、地震災害から命と暮らしを守る強固な街づくりに貢献したい」
 社会的責任を果たす使命を企業目的の中心に据える。広島大学や東京工業大学などで実証実験を重ね、同工法の効果を検証。2012年に特許取得。14年には全国を網羅する(社)IPH工法協会を設立し、理事長に就いた。ほぼ全国で施工できる体制を敷く。実証実験を繰り返すうち、新工法開発に注ぐ情熱と、社会貢献への使命感がいつしか化学反応を起こしたのだろう。
 4年前。平和記念公園内のレストハウス改修にIPH工法の採用が決まった。爆心地から170メートル地点で被爆し、地下室を除いて全焼したが、鉄筋コンクリート造だったことから原型をとどめた。歴史の語り部としてなるべく壊さず、後世へ残そうという判断が働いた。
 構造物の原型を保ち補修、補強を行う手順として、直径7ミリの穴を10センチ前後の深さで穿孔(せんこう)。高流動性の樹脂を内部空気と置換して注入し鉄筋とコンクリートを接合する。実証値0.01ミリに至る微細なひび割れまで拡散するという。注入後は加圧した状態で養生を行い、構造物の強度回復・長寿命化を実現する。被爆建造物では16年に施工した猿猴橋に次ぐ。
 愛媛県にある石鎚山の渓谷に架かる土木遺産「大宮橋」の補修・補強工事は四国の会員企業が中心となり、20年10月引き渡しを終えた。1927年竣工した鉄筋コンクリートアーチ橋の華麗な姿をよみがえらせ、(社)全日本建設技術協会の2020年度「道路部門」で全建賞に輝いた。
 尾道市の千光寺山中腹で築60年を経過した共同住宅は世界的な建築集団スタジオ・ムンバイによって宿泊できる複合施設へ生まれ変わった。部材の非破壊検査を行いIPH工法の有効性を確認。長崎市の通称軍艦島で8年前から供試体を経過観察し、日本コンクリート工学会の有識者と修復工法を検討している。
「山は高くなるほど底辺が広がるが、誰が施工しても確実に効果のある工法を確立し広く普及させていくため、人材の確保と育成に力を入れる」
 出張などの先々で目にする構造物の状態が気になってしょうがない。大地震に襲われた台湾へも足を運び、被害状況を見てきた。能登半島地震の被災地から引き合いがあり、建築物の補修が可能か検討を始めた。いまは次女の大西奈々専務が現地視察に同行するなど脇から支える。
「父は何度も失敗を重ねながら特許工法を確立した。母は財務・経理を担当しながら絶対に会社を潰さないという信念で支えてきた」
 家族の結束力と共に社員の実力も向上し、企業理念の共有化も進んできた。経済効率を求めるだけでなく、何よりも人の命を守るための経営を貫く覚悟だ。

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