幼い頃、為せば成ると刷り込まれた。チャンスと見たら素早く動く。倒産さえ再起のチャンスとした。そうして起業したアスカネットの上場(東証グロース)まで成し遂げた福田幸雄さん(75)は特有のひらめきから商機をつかみ、自分流ビジネスを貫く。いま「私の終活」と、はばかることなく、新年早々、新ビジネスを立ち上げた。
1月18日、東京都港区の南青山にスイーツ店「BEYOND SWEETS 表参道店」を開業。おいしいとカラダにやさしいという二つを両立し、スイーツの常識を越えた発想を店名に込めた。デジタル写真加工のアスカネット創業者で、5年前に同社会長を退任後、ファブ(中区幟町)の社長に就く。5年後には誰もが知るスイーツブランドに育てたいと意気軒昂だ。
すぐにはできないが、できない理由を解決すればチャンスになる。商売人だった祖母から為せば成ると教わった。「中学生の頃、白黒テレビで複数のチャンネルを視聴するには高額のチューナーが必須だったが、チューナーが無くても視聴できる方法を編み出した。自分が見たかったからみんなも同じと仮説を立て、近所の家に営業して回ったら大当たり。誰も手を付けていないことからチャンスが生まれると実感した」
20代の頃。海外のファッション雑誌に載っている、洗練された服が全国どこを探しても無く、作れば売れると考えた。生地屋と縫製工場の出資を得てアパレルメーカーの経営に打って出ると、服は飛ぶように売れた。
噂になり、一時は工場から東京の会社へ納品される商品を有名店舗のバイヤーらが朝から待ち構えているほどだった。だが、過度な拡大路線があだとなり、倒産に追い込まれる。事業に失敗した経営者がもう一度立ち直るための勉強会「七転び八起き会」に入り、学び直した。
広島に戻り、趣味のカメラで再起をかけた矢先の機転がまさに真骨頂といえる。当時の葬儀社は遺影写真を作成するため写真屋に持ち込み、出来上がるまで数時間ほど待たされた。そうした手間暇をはぶくことができないか。
「ユーザーは新しいことが大好きだが、面倒なことは大嫌いだ。電話一本で遺族宅に出向いて一緒に写真を選び、遺影写真にして祭壇に飾るまで全部を引き受けたところ、広島の葬儀社の大半から仕事が取れた。本当は相手がやらないといけない領域へも飛び込み、ユーザーが大変だと思っていることを代行するサービスにまで引き込む。商いの根っこに気付いた」
新事業を立ち上げたファブの着眼もユニークだ。健康な食べ物を切り口にした食品があふれる中、甘いものを食べるときは多少の罪悪感があるせいか、スイーツの分野は比較的競合が少ない。動物性食品を使わないビーガンスイーツのジャンルはあるが味や見た目がいま一つ。世界のブランドがひしめく「表参道」においしさと健康を追求したスイーツ店を出そうと計画して有名ブランドのパティシエにビジョンを語り、ようやっと口説き落とす。
「メディアや有名インフルエンサーに、本当においしい健康系スイーツができたからぜひ試食会に参加してほしいと大見えを切ったところ、一気に取り上げられ、複数の大手百貨店から誘いを受けるなど、大変な反響だった。カラダに良い食べ物は、みんながみんなに薦めてくれる」