働き続けることで健康寿命が延びるといわれている。好きなことをまっとうし、生涯現役がいい。だが、いつか最期が訪れる。その時を自宅で迎えるのか、病院か施設か。自分の意思だけで終(つい)の棲家(すみか)を選ぶのはなかなか難しいが、人生100年時代へ向け、誰にとっても大切な問い掛けではなかろうか。
広島県住宅供給公社の介護付有料老人ホーム「サニーコート広島」の運営が岐路に差し掛かっている。安佐北区亀崎に1992年完成。自立した生活を送ることができる人を対象に翌年から入居受け入れを始めた。当初は60歳以上の人を対象とし、入居時の平均年齢は69歳だったが、いまは75歳に。138戸の入居者は151人で、平均年齢は85歳。うち女性が96人。最高齢100歳の人も女性だ。入居者の高年齢化はむろんだが、時代と共に生きがいや趣味、健康、考え方なども多様化しているという。公社の伊達英一理事長は、
「最近の入居者は75歳を超えた単身女性が主流になり、とても元気です。開設時の30年前に比べて日本人の平均寿命が延び、当初の予想を超えて施設運営の在り方も随分変わってきたと思う。人生の後半を自由に楽しく過ごしたいと考える女性が増えている。何といっても女性は独りでも元気。こうした女性に納得して入居を決断してもらうには例えば、細やかな生活空間のディテール、住居設備一つ一つの機能、外回りの彩りさえないがしろにできない。生活へ向けた視線は厳しく、実に的確だと感心させられます」
当初、5歳刻みで入居条件(入居金・介護費用など)を設定していたが、2019年から75歳〜84歳を1歳刻みに改定。生活ぶりもさまざまで、仕事を持ちながら週末などにセカンド利用するケースも珍しくない。一方で、入居間もなく介護専用居室のナーシングホームへ移り住む入居者も増える傾向にあるという。要支援1〜要介護5認定の入居者は45人。高齢者専用住宅として基本は在宅だが、総合的な介護の仕組みが必要になってくると見る。14室あるナーシングホームの増設も検討課題だ。増減する要介護の人数を見極めながら施設整備、運営に備える。
1954年ごろから始まった高度成長に伴って急増する住宅需要に応えようと国の政策で全国都道府県・政令都市に住宅供給公社を設立。分譲住宅や賃貸住宅の建設・管理などを主な業務とし、安心して暮らせる地域基盤づくりの一翼を担ってきた。その後民間企業による住宅市場が急速に成熟したことに歩調を合わせて全国に57あった公社は現在37に減り、当初の役割を終えている。
県住宅供給公社は近年、賃貸住宅・施設、保有地など10カ所以上を売却。経営の軸足を徐々に移してきたが、今年はさらに加速し〝アクションの年〟に位置付ける。
「高齢者を受け入れるサニーコート、リモートワークが普及する中で子育て世帯を応援する東広島市の分譲宅地グリューネン入野、学生寮や外国人留学生向け宿舎などと民間の補完的役割へシフトしてきた。民間と一線を画しながら時代が求める施設運営の在り方を考え、果たすべき事業は何か、意欲的に挑戦したい」
県の要請を受け、運営管理する賃貸住宅でウクライナ避難民を受け入れており、現在12人が暮らす。将来、公社にどんな役割が待ち構えているだろうか。