広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2022年1月13日号
海上遺産を次世代へ

宮島の海にたたずむ嚴島神社の大鳥居は美しい。修復工事のため、大鳥居を囲う足場が組まれて2年余り。当初計画では既に修復を完了しているはずだったが、柱の内部に想定外の損傷があり工期を見通せないという。古来の建築技術を駆使した世界でも稀な海上の社殿を次世代へ継ぐ、専門業者による工事が慎重に続く。
 元請けとして工事全体の管理を担う増岡組広島本店(中区)は、本殿や能舞台などに多大な被害をもたらした1991年の台風19号による復旧工事をはじめ、長く嚴島神社の保存修復に携わる。10年前から現場を統括する舛本貴幸所長は、
「長さを表す尺や寸、部材名など、一般建築ではあまり使われなくなった用語がいまだに残る。着任当時は一級建築士として10年以上の経験があったが、現場で交わされる会話を理解できなかった。同じ建築でも異世界だったが、当社が蓄積した過去の実績と神社仏閣の復元法を習得することで理解を深めた」
 大鳥居の工事は、設計監理を行う嚴島神社の原島誠技師と、耐震診断と構造補強設計を担う(公財)文化財建造物保存技術協会(東京)の下で、塗装・檜皮(ひわだ)屋根・瓦・大工など専門業者と連携して進める。複数の木材を組み合わせる仕口継手が多用され、今も伝統的な工法が生きている。内部構造は表面を開けて初めて分かることが多く、大工や神社技師と相談しながら工法を決めるため、どうしても時間を費やすという。
 緊急時も気が抜けない。台風前は被害を想定し、できる限りの対策で備える。台風災害の際は、
「破損して海に流された木材などもできる限り回収し、乾燥させて再び利用する。部材の一つ一つが文化財であり、扱いには細心の注意が必要。くぎの痕跡からその時代や工法などを解明できることもあり、その価値は計り知れない。伝統建築は一般建築と比べて難しさもあるが、そこが奥深さであり、やりがいでもある。世界遺産の維持修理に携わらせていただけることは、われわれの誇りだ」
 中区鶴見町の同社広島本店には、各地で請け負った伝統建築修復の概要を記したファイルが並ぶ部屋がある。嚴島神社をはじめ、呉市豊町の御手洗町並み保存地区や下蒲刈町、鞆の浦(福山市)の古民家修復など200件以上の実績が集められている。山﨑正雄上席執行役員が各事務所の倉庫などに散在していた施工資料を集め、整理してきた。
「神社や仏閣、古民家はそれぞれの建物に独特の建築工法が採用されており、過去の実績が将来の重要な技術向上につながる。しかし案件ごとの特徴を理解し、どのような施工をすべきかを判断できなければ意味はない。伝統建築は一般建築よりも手間がかかり、工期が長くなる。しかし地域の文化財を守るという使命感がある。建築屋の誇りにかけ、伝統技術の習得に全力を注ぐ」
 活動中の中期計画には神社・仏閣・古民家などの施工能力向上を目指すプロジェクトがある。山﨑役員や舛本所長ら5人が毎月集まり、資料の活用法などの勉強会を続ける。文化財と共に、それを守り維持するノウハウを伝承するための体制整備を急ぐ。

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