広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2022年11月3日号
共感力を高める

ウクライナ市民を巻き添えにし、容赦がないロシアの覇権主義。大国の米中は世界の安全保障をめぐり、しのぎを削る。共感と対立。その相克を調和させる知恵はないのだろうか。市民レベルで親善交流活動を続けるNPO法人広島ベトナム協会が10月17日に20周年を迎えた。
 広島に来た留学生や現地の福祉・教育施設、枯れ葉剤被害者らの支援、ベトナム文化の紹介、交流イベントなどを行う。設立来、理事として運営に携わってきた上久保昭二理事長は、
「感慨深い。協会の奨学金で卒業した若者も多い。その子たちが成長し、自信と勇気を持って人々の役に立つ姿は心強く、元気をもらう」
 8月にはフック首相(現国家主席)から、文化交流の促進や関係強化に寄与したことが表彰された。協会設立の代表世話人で、不二ビルサービス社主の森元國行名誉会長も同様に表彰された。周年記念誌に思いをつづる。
「18歳だった1943年にサイゴン(現ホーチミン市)の南洋学院に入学した。在学中に日本の企業に就職して現地勤務していたが、45年に徴兵で無線通信隊に配属。敗色が濃くなるとラオスの山中まで退却し、戦後はサイゴンの邦人キャンプに収容された。つらい日々だったが、現地の人々は大変親切で、絆が深まった。ベトナムにいたい思いがあったが、上司に呼ばれて46年に帰国。今日の私があるのもベトナムの人々のおかげだと感謝している」
 その後、広島YMCAの相談を受け、75年から留学生への奨学金活動に携わる。91年には南洋学院の同窓生と「日越文化協会」を設立し、現地の大学内に無料の日本語学校を開講。広島ベトナム協会の活動と合わせ、実に50年近く支援を続ける。
 市内ホテルであった周年記念式典には約100人が集まり、森元さんと林辰也名誉理事に特別功労感謝状を手渡した。上久保理事長は、
「設立当時、県内のベトナム人留学生は十数人だったが、いまは1300人。在留者全体で1万3000人を超え、国籍別で最多となった。彼らと接して国際感覚、視点を学ぶことが多い。一方、一部の企業が技能実習生を搾取していた報道を目にすると胸が痛む。当協会はまだその問題に手を打てていないが、心の通う交流を通じて解決の糸口を探っていきたい」
 来年は日越外交関係樹立50年。来賓の松井市長は、
「昨今の世界情勢は人間の本質の悪い面が出ている。動物と人間が違うのは言語を駆使し、それによって共感できること。負の方向ではなく、正の共感力を高めるべき。成熟社会では皆が協力しないと持続不能に陥る。文化の違いはお互いさま。多様性を認めながら壁を乗り越えていかなければならない」
 コロナ禍のマスク不足が深刻だった2020年7月にはベトナムから同協会へ1万2500枚のマスクが届く。枯れ葉剤による結合双生児として知られるドクさんが所属する、日系旅行会社の会長からだった。さっそく県内留学生に配布し、喜んでもらったという。
 広島のベトナム進出企業は約40社。共感の糸を断ち切ってはならない。さらに関係が深まるよう期待したい。

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