5月の薫風に誘われ、19〜21日にG7広島サミットが開かれる。開催前と後で観光分野での誘発効果が期待されており、春先から街中でも外国人観光客が目立つようになった。ホテル、旅館をはじめ土産品やさまざまな食材を扱う業界、レストランなどの食事処もにわかに活況を呈している。3年、猛威を振るった新型コロナウイルスがようやく落ち着き、8日から「5類」に引き下げられたことと相まって、街が息を吹き返したようだ。
世界が広島に注目し、国際平和文化都市をアピールする絶好の機会。これと重なり、印象派を中心に国内屈指のコレクションを誇る、ひろしま美術館で開館45周年記念の特別展「ピカソ 青の時代を超えて」が開かれている。さすがはピカソ。上々の人気という。開館20周年のポーラ美術館(箱根)との共同企画で、ひろしま美術館にとって初の本格的なピカソ展になる。
2月4日から5月28日までの会期中に来館者5万7000人を見込んでいたが、5月9日で7万人を記録。その前日には、1978年の開館から通算700万人を達成した。世界最大旅行サイトのトリップアドバイザーでも美術館部門で上位ランキングに食い込み、5年連続の〝エクセレント認証〟を受ける。
20世紀最大の巨匠ピカソの生涯をたどる展覧会は、各館所蔵の名作を中心に国内外の作品群を加えた約70点を集め、制作プロセスに焦点を当てて創作の軌跡に迫る。20代前半の「青の時代」からバラ色の時代、キュビズム、新古典主義、シュールレアリスムなど、91歳の生涯で10万点近くもの作品を生んだ。旺盛な創作意欲は晩年まで枯れることがなく、多様で伝統を破壊する表現は鮮烈な光彩を放ち、いまなお世界中の美術ファンを魅了する。
1881年生まれのピカソの創作活動には戦争の影響も色濃い。スペイン内戦でナチス・ドイツの無差別爆撃による悲惨さを描いた作品「ゲルニカ」にインスパイアされた「キッズゲルニカ」を28日まで同館回廊に展示する。縦3.5×横7.8メートルのオリジナル作品と同サイズの絵を世界中の子どもたちが描くプロジェクトで、28年前にスタート。50を超える国で300点以上を数える。回廊には広島市内の幼稚園児らが制作した2点のほか長崎の高校生、ゲルニカ市やブチャ市の子どもたちの絵計5点を展覧する。ピカソが希求した平和は、G7の主要テーマとして世界へ発信される。
子どものように描くことを切望したという。変幻自在の作品を残し、紛争の愚かさを鋭く突く。同美術館の古谷可由学芸部長は、
「ピカソは〝大切なのは芸術家の作品ではなく、芸術家がどういう人間かということ〟と述べている。鑑賞者は、この芸術家が提示した見方や感じ方をどう受け入れるかにかかっている。意味内容を理解するかどうか、わかる、わからないではなく芸術家の見方・感じ方に共感するかどうかではないでしょうか」
広島銀行創業100周年記念事業として開館。被爆焦土からの復興を願って〝愛とやすらぎ〟に思いを込めた。これまで来館者数はほぼ数年刻みで100万人を積み重ねており、2040年辺りに1000万人を達成しそうだ。
広島がもっとも爽やかな季節にG7を迎え、終えて共感することがあったか、その後に問い掛けてくる。