広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2025年1月16日号
唯一無二の商品開発

野村乳業(安芸郡府中町)は明治生まれである。1897(明治30)年に初代の野村郁造が現在地に野村牧場を創設し、酪農業を始める。当時は、病人か乳幼児の特別な飲み物で、高価な薬のような感覚で飲用されていたという。
 創業から127年。昨年12月、(公社)中小企業研究センター(東京)の第58回グッドカンパニー大賞のイノベーション事業化推進賞(全国2社)を受賞。植物由来の乳酸菌飲料で新たな市場を開拓した取り組みと成果が評価された。世界的に健康管理の意識が高まり、乳酸菌プロバイオティクス(有用な微生物)市場の拡大が見込まれる中、5代目の野村和弘社長は、
「15年前ごろから韓国や米、中、台湾、独、豪などへ120回以上視察し現地の発酵食品を入手して分析、評価を重ねてきた結果、十分に戦っていけると踏んだ。いまは韓国、米、中の食品メーカーに原材料素材として微生物増殖剤を販売するほか、今年はもう一歩踏み込んだ海外取引を計画している」
 これまで決して順風満帆ではなかった。ヨーグルトの多様化を経営戦略に掲げ、日本初のプリンヨーグルトを開発。全国展開して市場を広げた。しかし2000年代に入り、牛乳やヨーグルトの価格競争が激化。大手の攻勢にさらされて疲弊し、先々を展望できないピンチに立つ。
 この頃から味、品質だけでなく、健康に役立つ〝価値〟を提供する発酵食品の開発を模索するようになった。さまざまな研究機関を訪ね歩く中、広島大学医系科学研究科の杉山政則教授と機能性食品の共同開発を始めた。そして世界初の植物乳酸菌100%で発酵させた固形ヨーグルト開発に成功する。多糖類を含有する植物乳酸菌の整腸作用を立証。自信を持って人に勧められる根拠を得た。杉山教授から提供される植物乳酸菌ラクトバチルスプランタルム SN13Tの働きが価格競争から抜き出る価値を発揮し、11年からは「飲む、植物乳酸菌」マイ・フローラの販売を始め、販路を拡大。生きて腸まで届く植物乳酸菌を爆発的に増殖させる発酵技術(特許)をテコにして、価値や質でニーズを生む唯一無二の商品開発に賭けた。
 県内のグッドカンパニー大賞受賞は熊平製作所など24社を数える。全国表彰(現グランプリ)はサタケや西川ゴム工業、モルテン、食品関連ではタカキベーカリーやあじかん、三島食品、オタフクソースが優秀企業賞などを受賞。イノベーション部門は野村乳業が初めて。発想し考え、行動してチャンスをつかんだ。
「腸活が実感できる機能性表示食品マイ・フローラは、数はまだ少ないものの病院やクリニックからの問い合わせも増えている。効果を実感した医師がスタッフにも勧めてくれるほか、患者の食生活から直していきたいという要望も届く。乳業から派生した発酵という技術が当社の命。お腹から健康を育て、喜んでもらう。これを揺るぎない事業推進の原動力に、国際競争も視野に入れていく」
 今夏発売を目指し、仕上げに入っている植物乳酸菌飲料は国内自給率の高いコメを原料とする。社員からの発案で独自の植物乳酸菌を使って商品化にこぎ着けた。原料を乳からコメにすることでCO2排出量を削減。農家や消費者に役立つ三方よしのビジネスモデルの可能性を秘めているという。「無いと困る会社にしたい」と夢を描く。

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