2025年は、およそ800万人いる団塊の世代(昭和22〜24年生まれ)が全て75歳以上の後期高齢者になる。現役世代の負担が増え、医療や介護の体制維持も一段とひっ迫。40年には独り暮らしの高齢者(65歳以上)は896万人に増加すると予測(総務省)されている。戦後〜高度成長期〜バブル崩壊を駆け抜けた高齢者にとって余生をどう過ごすのか、備えは万全か、不安は尽きない。
広島商工会議所ビル8階に事務所を置く(社)人生安心サポートセンターきらりは、主に独り暮らしの高齢者向けにさまざまなサービスを展開している。入院や施設の世話になる際の保証人引き受けに加え、認知症に備えた財産管理、生前整理、遺言の作成などをトータルサポート。司法書士法人ありがとう代表も兼務する橋口貴志理事長は、
「01年12月に独立して司法書士法人を立ち上げた頃は、前年に成年後見制度が施行されたこともあって高齢者の後見人を引き受けることが非常に多かった。しかも引き受け時には認知症が進行していて既に財産を奪われている例も目にし、元気なうちに相談できる場所が必要と痛感。11年のきらり設立につながった」
延べ会員数は400人を超え、年齢層は45〜98歳と幅広い。会員向けには終活講演会やカープ観戦会、日帰りバスツアー、大学生との花見といった交流イベントを100回以上開催してきた。会員が病を患えば医師の説明を一緒に聞き、手術に立ち会うこともある。独りで不安を抱える高齢者に、しっかりと寄り添う姿勢が頼もしい。
「長年連れ添った配偶者との死別だけでなく最近は離婚、未婚など、独り身となる背景はさまざま。そうした高齢者を狙う詐欺師も増えている。これから訪れる超高齢社会においては、社会全体で孤立を防ぐ仕組みをつくることが大切となる」
新たなプロジェクトが動き出した。来年夏ごろをめどに中区舟入幸町で7階建ての多世代交流施設「きらりビル(仮)」を開設する。4〜7階には賃貸の8室があり、半分の部屋には単身の高齢者が住む。残りのうち2部屋には学生などの若者、もう2部屋はひとり親家庭が入居する構想を描く。3階以下は一般向けに多目的スペースや、地域の子どもたちに開かれた「みんな食堂」を設ける。入居する高齢者には幅広い人とつながる場を提供するほか、食堂の運営に関わってもらうことでやりがい、生きがいを得てほしいと話す。
「料理ができない方であっても、例えばビルの管理や、共に入居するひとり親家庭の親が仕事で遅くなる日に子どもの世話をするなど、できることは必ずある。若い入居者には地域住民に参加してもらえるような催しの企画、実行に期待。かつての日本の村のような、血縁はなくともみんなで協力し合う環境をイメージしている。これが成功すれば今後も同様の施設をどんどん増やしたい。選択肢が増えることで、より多様な暮らし方を会員に提案できる」
入居者が住みやすく、利用者も行きやすい施設とするため、広島大学の建築学や心理学の研究者も協力。きっかけは広大法学部卒の橋口理事長が所属する同窓組織「千田塾」で生まれた縁だったという。同大で客員教授を務めていた佐伯博章さん(地域総合設計代表)が基本計画・設計を担当。やはり地域がつながる力は大きい。