広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

広島経済レポートの記者が注目する旬の話題をコラムで紹介。

  • 2019年1月31日号
    広島は勝てるか(24日号に続く)

    今はともかく、広島がこれから先、他都市と競って勝てるだろうか。到底、東京とは太刀打ちできないが、観光庁の「グローバルMⅠCE(マイス)都市」推進の波に乗り、腕に覚えのある地方の有力都市も虎視眈々(たんたん)と大規模な展示会、国際会議の誘致をもくろむ。
     例えば、展示会場面積7万平方メートル、来場者数3万7000人、開催期間3日間の国際見本市で、広島市への経済波及効果は約65億円に上るという。これは広島商工会議所のグローバルMⅠCE検討特別委員会(廣田亨委員長)が観光庁の「MⅠCE開催による経済波及効果測定のための簡易測定モデル」で算出。こうした見本市が年に10本、20本なら・・・と勘定したくなるが、残念ながら今、広島にその受け入れ施設はない。
     地域産業振興の重要性が増す中、大規模な展示会、イベントを誘致することにより、国内外から多くのバイヤー、消費者、技術者らが集まり、交流できる価値は大きい。ビジネス機会やイノベーションの創出、さらに都市の競争力・ブランド力の向上も見込めるとしている。
     昨年12月に商工会議所は県と市へ、「MⅠCEのあり方」を提言。MⅠCE振興のレベルアップを図るために、①5000人を超える規模の会議・学会・イベントに対応できる複合施設のほか、②大規模な展示会・イベントが開催できる展示施設の整備が必要、③産学官の連携によるMⅠCEの誘致・主催に向けた活動強化・体制拡充が求められるとし、ハード整備やソフト強化の構想を描く。
     候補地の選定は実現可能性を優先。一定の用地があり、周辺でにぎわい機能整備が進められている西区の「商工センター地区」と西飛行場跡地を合わせた一帯を「広島市西部湾岸地域」に位置付け、ハード整備の方向性として、
     ▷商工センター地区は、2000〜3000人超収容可能な会議場と3000〜5000平方メートルの展示場、または1万平方メートル規模の多目的ホール(分割可能構造・可動席システムなど主催者ニーズにフレキシブルに対応できる機能)を整備。
     ▷西飛行場跡地と合わせた西部湾岸地域では、国内外をターゲットとした10万平方メートル規模超の大規模展示会やイベントが開催できる国際水準の展示施設の整備−など。
     一方で、市中心部のMⅠCE関連施設の機能・連携強化では、イベントなどの開催機能、神楽など広島の観光・文化情報発信機能の強化に向けたオープンスペースの整備や各施設をつなぐ動線の整備などに触れる。さらに西部湾岸地域と市中心部を結ぶ軌道系交通機関の整備など、総合的なまちづくりを進めるべきとしている。
     なかなか大掛かりである。 これに県、市がどう応えるのか。スケジュールなどは示されていないが、ハコはできても、そこで展示会などが開かれなければ無用の長物。施設整備とともにイベントなどの誘致・主催体制の強化を両輪で進めていくことが、絶対条件になる。ドイツのハノーバー・フランクフルトの展示運営団体は1000人超の従業員を有し、主催事業が売り上げの中心という。立ち遅れてはいるが、国際平和都市を目指す広島にチャンスはある。みすみす逃す手はない。

  • 2019年1月24日号
    広島の弱みに着眼

    やっぱり東京はすごい。2017年に国内で開かれた展示会の半分以上の983件が東京ビッグサイトで開催されており、5万平方メートル以上の大型展示会では65%以上を占め、次いで幕張メッセが20%以上。首都圏にある2施設を合わせて全体の85%以上という圧倒的な強さを誇る。
     国際会議の開催件数ランキング(16年・観光局統計)では、東京23区が571件で群を抜くが、続いて福岡市383、京都市277、神戸市260、名古屋市203などの順。広島市は全国12位だが、その開催件数は76件で他の政令市に比べて桁違いに少なく、福岡の5分の1にとどまる。2000人規模の国際会議は県内で3件だけだった。
     とりわけ大規模な国際会議場や展示会場の整備が大きく立ち遅れており、1987年に広島港出島地区へメッセコンベンション施設を建設する構想が浮上したものの、いまだ実現のめどさえ立っていない。また、5000人超を収容できるイベントホールは広島にない。こうした広島の弱みに着眼したのが、西区商工センターの流通団地に卸売業が集積する広島総合卸センター。団地中心部の「広島サンプラザ」と「広島市中小企業会館・総合展示館」の両施設と機能を一カ所に統合する、西日本最大級のメセコン施設誘致・整備を中心とした再開発構想を描く。
     2017年に市へ、同構想をコアとする「まちづくり提案」を提出。市議会定例会で市のMⅠCE(会議・研修、報奨旅行、国際会議・展示会・見本市やイベント)推進に関する質問に、松井市長は、
    「2月に広島総合卸センター地区の活性化策として提案のあったMⅠCE施設整備については、グローバルMⅠCE都市への整備ということも視野に入れながら検討する」と答弁。にぎわい施設整備構想のある、広島中央卸売市場建て替え事業と相乗効果の構図を描きながら、市との協議を進めてきた。
     構想のあらましは、最大1万1000平方メートルの展示面積を持つメッセコンベンションセンターを整備し、交流人口の大幅な増加を見込む。付属して大ホール、レセプションホール、ホテル設置など。
     決して符節を合わせたわけではないだろうが、これが布石になった。広島商工会議所は昨年12月21日、国際会議や見本市などを開ける施設整備の提言をまとめ、県と市へ提出。候補地(公有地)に、①商工センター地区、②出島メセコン用地、③西飛行場跡地新たな産業(にぎわい)ゾーンの3カ所を挙げるが、出島用地は周辺環境や港湾物流への配慮が必要などから難しいと判断。残る2カ所を「広島市西部湾岸地域」として一体的に開発する方向を示す。
     商工センター地区(52000平方メートル)は宿泊機能や市中心部とのアクセス等の課題はあるが、JR駅に近く、瀬戸内海を望み、宮島にも近い。流通企業の集積などポテンシャルは高い。何よりも「地域が前向き」としている。
     西飛行場跡地は、利用計画はあるものの事業が確定していない。市中心部とのアクセスに課題はあるが、にぎわい・産業創出に向けた動きが進んでおり、近接する商工センター地区と一体的なまちづくりが期待できる。−誘致体制強化の課題など、次号で。

  • 2019年1月17日号
    難コースに挑む

    トランプの不確定。どんなカードが飛び出すやら世界中がはらはら、ひやひや。
     がちんこの米中貿易摩擦をはじめ、激動する世界経済のあおりを食らえば、たちまち翻弄(ほんろう)される日本経済。景気のリスク要因が広がり、なかなか予測困難だろうが、県経済の今年の見通しについて、広島銀行系のひろぎん経済研究所の角倉博志理事長は、
    「設備投資の堅調などを背景に、緩やかに回復するのではなかろうか。昨年の西日本豪雨からの復旧・復興なども景気の下支えとなる見込み。ただし、世界経済のスローダウンや米国の通商政策の影響などから、輸出の増加ペースが鈍化する見通しで、景気の回復テンポは緩やかなものにとどまる。県経済は、米国向けの自動車輸出の割合が全国よりも高く、今後の米国との通商政策の動向に、特に留意する必要がある」
     ▷輸出=マツダが2023年度で200万台の生産体制を発表する中、主力の自動車が底堅く推移する見込みであることから、引き続き増加基調で推移。ただし、海外経済のスローダウン等から全体では緩やかな回復にとどまる。
     ▷生産=昨年7月豪雨の影響で自動車や一般機械が大幅に落ち込んだが、挽回生産を背景に徐々に持ち直し、10月には災害前の水準に戻った。19年度生産活動は緩やかな増加基調が続くものの、輸出の鈍化等から昨年よりも増勢が鈍る見通し。
     ▷企業業績=日銀短観(18年12月調査)によると、18年度の県内企業の売上高は2年連続して前年度を上回る見通し。ただし、原材料費や物流費、人件費などによるコスト増加から、経常利益は前年を下回る見込み。また、中小企業は、10月の消費税率引き上げによる価格転嫁が進まない場合は収益の圧迫要因になる可能性が高い。
     ▷雇用・所得環境=県の有効求人倍率(18年11月)が全国2位の2.11倍となるなど、労働需給はひっ迫した状況が続いている。しかし、全国同様に名目賃金・実質賃金とも伸び悩んでおり、労働需給のひっ迫度合いが賃金上昇に十分には反映されていない状況がうかがえる。この要因として賃金水準の低い労働者増加による一人当たり賃金の伸び悩みが考えられるが、雇用者数の増加から、家計全体の収入は増加していると推察され、所得環境は改善傾向にあると考えられる−など。
     ケーズデンキの新規出店(春)やエディオン広島本店建て替えオープン(初夏)ほか、夏以降に「ekie」第4期開業が予定されている。マツダの新型エンジン搭載の新型車発売の明るい話題も。
     ゴルフに例えて、
     5月ホールでは「富士山」(新天皇即位)を眺めながらのプレーとなるので、この絶好のロケーションを味方につけて気分的に乗っていくことが重要。また本コースでは「グリーン整備」(復旧・復興)が進められて状態が良くなってきているので、パットを確実に沈めることが大切。10月ホールには乗り越えるべき「大きな池」(消費税率引き上げ)があるほか、トランプさんの作った「バンカー」(保護主義)も設けられており、スコアメイクに苦労・・・。だが、難コースに挑み、油断なく慎重にプレーすれば好スコアにつながることが多いという。

  • 2019年1月10日号
    会頭改選期

    今年は、広島商工会議所の会頭改選期。いつもなら夏ごろから次期会頭の選出をめぐる動きが始まるが、今回は年明け早々からいろいろと話題に上りそうだ。
     3期9年目の深山英樹会頭(77)は10月で任期を満了する。一方で、広島経済同友会の次の代表幹事に、広島ガスの田村興造会長(67)を内定し、4月の総会で正式決定する。任期は2年。慣例として2期4年を務める。そうすると4〜9月の半年間、広島ガス出身の商議所会頭、同友会代表幹事の任期が重なることになる。両団体トップを一つの会社から出すのは負担が大きく、これまで避けてきた。しかし、半年限りならと広島ガスや関係者の了承を得て、次期代表幹事が内定した経緯がある。既に深山会頭は「今期をもって退く」意向を固めているという。
     広商議会頭は、日本商工会議所の副会頭、中国地方商工会議所会頭も担う。近年は「ご三家」と呼ばれるマツダ、中国電力、広島銀行を軸に選考を進め、水面下で打診したものの不調に終わり、異例ともいえる3期9年に及ぶ深山体制が続いた。
     目下、商議所ビル移転・建設計画のほか、遅々として進まない旧市民球場跡地の利活用、サッカー専用球場建設などの課題を抱え、行政と足並みをそろえて推進していく重責をどうこなしていくのか。ぐいぐいと広島を引っ張るリーダーの登場を願いたい。はや有力候補者に、4月で任期を満了する同友会の池田晃治代表幹事(広島銀行会長)らの名が上がるが、さて。  魔法の杖など存在しない  先週号に続き、マツダデザイン部門リーダー、常務執行役員の前田育男さんの著書「デザインが日本を変える」の第3章「ブランド論」のさわりを紹介したい。
     一般ユーザーにいくつかのプロトタイプを見てもらい、意見をヒアリングして、それを商品に反映させるという過程に強い不満を抱いていた前田さんは「市場調査の廃止」を決断。こう述べている。
     −数年後に発売されるモデルに何が求められるのか、はたして一般のユーザーにわかるのだろうか。そもそもユーザーの言う通りにデザインや中身を変更するということはメーカー側の意思やポリシーはゼロということにならないか。そんな受動的な姿勢でいる限り、マツダ独自のブランド価値はいつまで経っても確立できないと思っていた。
     −マーケティングに携わる人たちはブランディングと呼ばれるイメージ戦略によってブランド価値を上げられると考えているようだが、私に言わせればそんな魔法の杖など存在しない。錬金術のようなやり方で誰もが憧れる理想の商標を手に入れることなど逆立ちしてもできはしない。ブランドにとって一番大事なものそれはまず作品である。最高のブランドを作ろうと思ったら、まず最高の作品を作るしかない。作品自体が個性的で世界のトップを張れるようなものであれば、おのずとブランド価値は付いてくる−
     世界的に評価されるマツダの「魂動デザイン」誕生までに、経営戦略にまで切り込むデザイナーの矜持(きょうじ)があり、その挑戦は個性的だが、さまざまな企業経営に通底するアピールに満ちている。