広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

広島経済レポートの記者が注目する旬の話題をコラムで紹介。

  • 2023年3月2日号
    新しい目的をつくる

    被爆の翌々日にはすでに己斐町−天満町間という一部であるが、市内電車が動き始めていた。電車の早期復旧は萎縮しがちな市民に大きな活力を与えた(広島新史より)。
     1912年の電車開業から110年。前身の広島瓦斯電軌を分離した広島電鉄設立から80年の歳月は広島の産業発展と戦後復興、都市開発などの動きとも重なり、市民と共に歩んできた。5月のG7サミットの各国首脳やメディア関係者に路面電車で広島を体感してもらいたいが、街中を走るその姿も強く記憶に残るに違いない。電車に乗ろうと広島を訪れる人が増えるのではなかろうか。
     これまでに路面電車は幾度か存廃の岐路に立った。椋田昌夫社長は「その時々に人の踏ん張りがあった」と話す。6代目社長の奥窪央雄さんはモータリゼーションが加速した高度成長期に路面電車廃止の危機に直面し、ちょうどその頃に電車部長の辞令が出たものの「電車の葬式を出す役なら断らせてください」と反発。しかし廃止になれば退職するまでと覚悟を決めた。電車軌道敷内への車の乗り入れをめぐる問題も発生していたため、県警の担当課長と共に路面電車が主幹交通のドイツを視察するなど奔走。その結果、車の乗り入れ禁止につながり、電車を守った。
     奥窪さんからバトンを受けた7代目の大田哲哉社長は就任早々、電車の新造に力を入れた。広島の街並みが次第に都市の風格を備えていく中、車両の近代化に着手。97年にデザインを一新した3950形を皮切りに、5年間で3両連接16編成・2両連接12編成を相次ぎ導入し、都合100億円を投入した。
     2003年に国産車両の開発に乗り出した。05年に「グリーンムーバーマックス」5100形の運行を開始。その後も5100形の遺伝子は現在に受け継がれており、広島の路面電車の礎となっている−など先輩にまつわる話を振り返った。
    「被爆で電車123両のうち108両が全焼・破損し、支柱の破損で架線に甚大な被害が発生した時、怯むことなく運転再開に向けて徹夜で頑張り抜いた諸先輩と市民の協力があったことへの感謝の気持ちを忘れてはならない。先輩から後輩へと引き継いできた〝広電スピリッツ〟をさらに次の世代へつないでいく使命がある」
     いま広電の歴史に残る大事業が進展している。広島駅ビルの建て替えと広電の路面電車が乗り入れる2階広場の整備事業は20年12月に着工し、25年春の完成を目指す。路面電車乗降場は駅中央口や新幹線口改札と段差なくつなげ、乗り換えしやすくする。広電乗り入れに伴って生まれた空間やビル1階を生かし、バス乗降場を増設するほか、ビル直結駐車場(約500台)と北西側に別棟駐車場(約400台)も備える計画だ。
     この広島駅南口広場の再整備事業は市、JR西日本と共同で取り組む。
    「完成と同時期に駅前大橋ルートの供用を始める予定だ。JRからの乗り換え距離と時間が短縮できるのに加え、経路変更や巡回ルートの整備によって市が提唱する駅と八丁堀・紙屋町をつなぐ楕円形都市づくりを推し進める効果が期待される。時代が求めている公共交通の役割は何か。新設した地域共創事業部を窓口に地元企業や行政を巻き込んで広島都心会議を設立。これまでにない新しい目的をつくっていきたい」

  • 2023年2月23日号
    時代が求める役割

    働き続けることで健康寿命が延びるといわれている。好きなことをまっとうし、生涯現役がいい。だが、いつか最期が訪れる。その時を自宅で迎えるのか、病院か施設か。自分の意思だけで終(つい)の棲家(すみか)を選ぶのはなかなか難しいが、人生100年時代へ向け、誰にとっても大切な問い掛けではなかろうか。
     広島県住宅供給公社の介護付有料老人ホーム「サニーコート広島」の運営が岐路に差し掛かっている。安佐北区亀崎に1992年完成。自立した生活を送ることができる人を対象に翌年から入居受け入れを始めた。当初は60歳以上の人を対象とし、入居時の平均年齢は69歳だったが、いまは75歳に。138戸の入居者は151人で、平均年齢は85歳。うち女性が96人。最高齢100歳の人も女性だ。入居者の高年齢化はむろんだが、時代と共に生きがいや趣味、健康、考え方なども多様化しているという。公社の伊達英一理事長は、
    「最近の入居者は75歳を超えた単身女性が主流になり、とても元気です。開設時の30年前に比べて日本人の平均寿命が延び、当初の予想を超えて施設運営の在り方も随分変わってきたと思う。人生の後半を自由に楽しく過ごしたいと考える女性が増えている。何といっても女性は独りでも元気。こうした女性に納得して入居を決断してもらうには例えば、細やかな生活空間のディテール、住居設備一つ一つの機能、外回りの彩りさえないがしろにできない。生活へ向けた視線は厳しく、実に的確だと感心させられます」
     当初、5歳刻みで入居条件(入居金・介護費用など)を設定していたが、2019年から75歳〜84歳を1歳刻みに改定。生活ぶりもさまざまで、仕事を持ちながら週末などにセカンド利用するケースも珍しくない。一方で、入居間もなく介護専用居室のナーシングホームへ移り住む入居者も増える傾向にあるという。要支援1〜要介護5認定の入居者は45人。高齢者専用住宅として基本は在宅だが、総合的な介護の仕組みが必要になってくると見る。14室あるナーシングホームの増設も検討課題だ。増減する要介護の人数を見極めながら施設整備、運営に備える。
     1954年ごろから始まった高度成長に伴って急増する住宅需要に応えようと国の政策で全国都道府県・政令都市に住宅供給公社を設立。分譲住宅や賃貸住宅の建設・管理などを主な業務とし、安心して暮らせる地域基盤づくりの一翼を担ってきた。その後民間企業による住宅市場が急速に成熟したことに歩調を合わせて全国に57あった公社は現在37に減り、当初の役割を終えている。
     県住宅供給公社は近年、賃貸住宅・施設、保有地など10カ所以上を売却。経営の軸足を徐々に移してきたが、今年はさらに加速し〝アクションの年〟に位置付ける。
    「高齢者を受け入れるサニーコート、リモートワークが普及する中で子育て世帯を応援する東広島市の分譲宅地グリューネン入野、学生寮や外国人留学生向け宿舎などと民間の補完的役割へシフトしてきた。民間と一線を画しながら時代が求める施設運営の在り方を考え、果たすべき事業は何か、意欲的に挑戦したい」
     県の要請を受け、運営管理する賃貸住宅でウクライナ避難民を受け入れており、現在12人が暮らす。将来、公社にどんな役割が待ち構えているだろうか。

  • 2023年2月16日号
    広島にドローン教習所

    いつの間にか飛んできて爆発が起きる。AP通信などはウクライナ・ロシア戦争で自爆型ドローン(小型無人航空機)が軍事拠点に突撃する映像を流し、世界をあっと驚かせた。テクノロジーがどのように使われるのか。常に危うさもはらんでいるが、日本ではドローンの有効活用をめぐり、さまざまな取り組みが始まっている。
     昨年12月にドローン操縦の国家資格制度がスタート。同年6月に義務化された機体登録と併せて、所有者の把握と危険な機体の排除、安全でモラルある運航などを徹底させる狙いだ。国家資格の試験方法は自動車免許と似た仕組みで、各地に開設予定の教習所(無人航空機操縦者 技能証明登録講習機関)の修了者には実地試験が免除される。4月をめどに県内で初めて日本無人航空機免許センター(JULC、東京都千代田区)の広島教習所を開設するヒトライト(hitolight、西区小河内町)社長の浦中彩子さん(37)は、
    「個人利用だけでなく企業でも、いまだコンプライアンス(法令順守)の意識が十分に浸透していない。飛行可能な空域などが厳格に決まっており、それらを守らずに墜落させて人身事故を起こせば大ごとになる。一等ライセンスの取得者は、これまで禁止されていた他人の上空でも飛ばせるため、一人一人の倫理観がさらに重要になる。子どもたちは飛行機を見て喜ぶが、ドローンを目にして怖がる社会にしてはいけない」
     2008年に北九州市立大学法学部を卒業し、フォトスタジオに入社。6年後に転職した建設コンサル会社では、カメラマンの経験を生かして現場のドローン航空撮影に携わる。機体製造で世界トップのDJI(中国)のキャンプ(講習)マスターの下で「DJIキャンプ インストラクター」資格を取得。社内のドローン運用ルール策定や操縦者育成を7年間経験し、国土交通省のテックフォース(緊急災害対策派遣隊)職員など計約200人への指導実績がある。安全意識を広めるためにパイロット育成事業で独立を決め、今年1月6日に会社設立した。
    「ドローンと出会って夢中になり夢を追いかけてきた。DJIキャンプマスターの本山哲男さんや中村佳晴さんから勇気をもらい、踏み出すことができた。ドローン運用方法の考案に迷っていたときには他のマスターを交えて相談に乗ってくれ、自信が足りなかった私を後押ししてくれた。人脈も広がり何物にも代えがたい財産となっている」
     JULC広島教習所の正式開講に先立ち、1月から「ドローンパイロットスクール広島」の名称でDJIキャンプや独自講座などを始めた。企業向けのコンサルティングも手掛け、ドローンを事業に活用する方法や社内の機運醸成、運用ルールと社内規約の策定などをアドバイスする。写真測量技術や画像処理、データ解析などの個別トレーニングも用意。初年度の受講生120人、5年後に年間300人を目指す。
     国土交通省の検討会はトラック運転手など物流の担い手不足解消を目指し、ドローンによる荷物配送ガイドラインを2021年度に策定。他人の上空を飛ばせる国家資格の創設を受けて22年度に改定した。離島や山間部では既に日本郵便やヤマト運輸が荷物配送の実証実験を行っている。空の平和利用に寄せる期待は大きい。

  • 2023年2月9日号
    世の中にないもの

    広島にすごい会社がある。半導体装置製造のローツェ(福山市)は創業から36年間の平均成長率が21%を超えており、社員220人の平均年収は1122万円(2022年2月末時点)というから驚く。少人数の持ち株会社などを除き、新入社員を含めた全社員の給与水準は中四国地区で群を抜く。全国ランキングでも地方企業では異例の上位39位(東洋経済新報社調べ)という。
     創業者で取締役相談役の崎谷文雄さん(77)は、
    「さまざまな得意分野を持っている人を積極的に採用してきた。一人一人が個性を存分に発揮し、各分野でトップになれれば、会社全体でもトップになれると思って経営してきた。入社時に個人の得意分野を見定めるために、設立当初から3時間に及ぶ性格テストを実施している。そのような会社の中に身を置いて、私自身が子供の頃から好きな製品開発の仕事にずっと携わることができた。創業からいろいろとあったが、大変とは思わず、むしろ幸せだった。技術に自信を持って楽しみながら仕事のできる集団として価値の創造を究める。それを応援するための社風、仕組みづくりに努めてきた」
     独立前に勤めた会社で、自身の発案した自律分散処理システム(配線数を大幅に減らし、機械部分に電子機器を組み込むシステム)の開発を頼んだが、聞き入れてもらえなかった。それで、自らやろうと40歳で会社を起こした。良いものを作ってもいずれは営業力、開発力、資金力のある大手に負ける。いい手はないか。日夜考えた結果、たどり着いたのが、世の中にないものをつくること。新聞や雑誌に新製品を発表すれば、無料で発信してもらえる。しかも自ら宣伝するよりもよほど価値が高い。他社が販売しているものと同等の製品はつくらない、世界的なニュースになる製品だけをつくると決めた。以来、超小型モータ制御機器をはじめ、世界初の製品を数多く市場投入。アルミニウムや電力などの調達コストで日本より優位性のある海外に早々と目を向け、米国、ベトナム、台湾、韓国、シンガポール、中国、ドイツへ次々進出した。現在、半導体の基盤となるシリコンウエハの搬送装置の分野で世界シェア1位に駆け上った。
     経営の秘訣は案外と単純なのかもしれない。1997年に上場。日米の株主総会のやり方を調べる中で、ビジネスに向かう根本的な相違に驚かされたという。
    「日本企業は株主総会で会社のやり方にケチを付けられないよう、責任を取らされないようにするため、早く終わらせることを優先しているように映る。そのせいか、質問に対して適格な回答をしていない。しかし、米国企業は株主に自社の魅力を直接伝えるチャンスと捉え、積極的な情報開示に努めている。総会後は会社見学を実施し、社員全員で歓待。改善提案を積極的に受け入れ、それを実践する。イノベーションを起こす源泉に思えた」
     90年代、備後地区は人口当たりの上場企業数で全国トップの時期があった。
    「備後の人は、ずけずけと良いことも悪いことも本音で語る。これは米国に近い。成長の原動力ではないか」
     2月22日午後4時から、ひろしま環境ビジネス推進協議会(事務局・広島県)が広島市内で開く経営者向けセミナーで講師を務める崎谷相談役のズバリに期待。

  • 2023年2月2日号
    空海と宮島弥山

    宮島に5月の薫風が吹き渡る頃、朱の回廊を歩くG7首脳の姿を写した映像が一斉に世界へ配信されることになりそうだ。折しもいま、マルチな才能を発揮し数々の偉業が伝わる空海の生誕1250年記念事業が宮島を中心に各地で繰り広げられている。
     真言宗開祖の空海と宮島弥山の関わりは深い。遣唐使として唐に渡り、その後弥山で修行。806年に開基した宮島最古の寺院、真言宗御室派の大本山大聖院(総本山は仁和寺)の吉田正裕座主は、
    「私たちは空海の語った言葉を次代へ伝えていますが、生きておられたらいま、どんな言葉を発し、どんな行いをされるだろうか。改めてその教えを深くかみしめている」
     2019年、過去最多の来島者465万人超を記録した宮島はコロナ禍で一転し、閑散とした。昨年ようやく283万人に回復し、晩秋には大鳥居の修復工事も完成。空海生誕記念事業は宮島観光協会などでつくる実行委員会(椋田昌夫委員長=広島電鉄社長)が主催し昨年5月、弥山頂上付近の不消霊火堂で式典を開く。その後に山伏修験体験会、花火、能を楽しむ会、書展などを次々開催。来年3月末まで続け、宮島に人を呼び込む起爆剤にしたいと目論む。フォトコンテストや空海クイズラリーを継続しながら今年は灯籠流しや、VRも活用して御室派総本山の仁和寺と大聖院のつながりなどをテーマに紹介するシンポジウムを3月と9月に開く。5月27日には弥山で空海を法要する柴灯護摩供(さいとうごまく)を久しぶりに一般公開する。
    「まずは興味を持っていただく。そして膝を突き合わせ語り合う。実父の先代座主は観光、信仰、健康の〝三こう〟に努めよと言い続けていた。1998年度広島青年会議所(JC)理事長に就いて人づくりやまちづくりなどの考え方、実体験をさせてもらったことが大いに刺激になった。岸田首相とは広島JC時代の同期で、その頃から応援している。信仰に親しみ、即身成仏の空海の教えを分かりやすく伝える。そのために五感を刺激してもらえるよう境内を整備。テーマパークのようだと言われることもあるが、時代に合った大聖院を模索し、いまを生きる人に求められる場所としたい」
     記念イベントに先立ち、ロゴマークや、平和記念公園の「ともしびの火」のもと火になっている霊火堂の「消えずの火」の灯火台と大香炉の創作を地域に求めた。ロゴは基町高校の2年生だった伊藤さんによる。1200年を継ぐ消えずの火は空海が護摩修行した際の残り火を絶やさず守り続ける。広島のものづくりに貢献したいと考え、有志が集まってスタートした〝ものづくりの火プロジェクト〟でマツダが灯火台の製作と全体のデザイン、お墓の日光が大香炉、創業者が宮島出身のマルニ木工が香炉台を担当。2017年からマツダと市立大学芸術学部との共創ゼミで学ぶ学生も参加する。
     苦難を乗り越え、人々の幸せを願った空海は庶民のための学校(綜芸種知院)を初めてつくったという。
    「何よりも教育が大切だということを理解していたのでしょう。人を育てることは家庭や学校、会社、社会全ての基本。時代が変わり、どのように信仰を語り、子どもに教えるのか戸惑いがあるように思える。日々、相手に対する思いやりと感謝の心を持つことが何より大切」
     空海の教えという。

  • 2023年1月26日号
    夢は始まったばかり

    2018年に講談社から発売された本「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」が話題になり、電子書籍を合わせて13万部超のベストセラーになった。ゼロからの起業よりも、すでに経営基盤がある小さな会社を買う方が成功の確率が高いという。本当かなと思うが、いわばスモールM&Aの選択肢を推奨する。
     独立や起業を夢見るサラリーマンは大勢いる。しかし経営経験のないまま事業を引き継ぐリスクは大きく、大抵は躊躇(ちゅうちょ)する。東広島市の土岸洋堂さん(45)はサラリーマンだった21年秋に決断し、東広島エリア最大級の打ちっぱなし練習場「西条ヒルサイドゴルフ」を運営する株式会社ヒルサイド(同市八本松東)の経営を引き継ぐ。
     当時の売上高は3000万円。役員報酬ゼロで赤字3000万円を計上する厳しい経営状況だった。だが、ひるむ気持ちはなかった。リニューアルオープン後、昨年12月で丸1年を迎え、業績は急回復している。
    「ビジネスは顧客目線が大切だとよく耳にしますが、つい先日まで自分が施設を利用する側だったので改善点の分析には自信がありました。前オーナーが売却を検討しているという情報が入り、願ってもないチャンスだと思った。長く勤めていた会社をすっぱりと退職。オーナーと話し合いを重ねて、真新しい環境に飛び込んだ」
     1977年5月生まれ。県内の自動車ディーラーに整備士として計7年勤務した後、マツダ関連会社でガソリンエンジンの開発に約15年携わった。むろん経営は素人だが、道は好む所によって安し。営業や労務面、取引先の管理、機械設備の仕組みや操作方法などを短期間で習得した。
    「銀行の方は当初から半信半疑で、経営経験もないのに本当にうまくいくのか、果たして決算書が読めるのか、などと厳しい指摘があった。とにかく必死に食らいつき、何度も事業計画を作り直した。私の熱意が伝わったのか、やがてアドバイスを受けながら無事に買収資金を借り入れることができました」
     既存のパートスタッフ10人弱の雇用を維持。21年12月16日から新しい経営体制でスタートを切り、まずは傷んできている打席用のマットや練習球の入れ替えから始め、施設内の改修や美化活動に取り組んだ。
    「西条ヒルサイドゴルフの最大の魅力は美しい天然芝のフェアウエーと、ショットに集中できる自動ティーアップ機です。この二つは他の練習場に負けない差別化要素なので何としても維持。多くの人から毎日練習に行きたいと思ってもらえる場所にすることが理想と考えていた」
     年次会員を再募集しフリーワイファイの設置、夜間でも球筋がはっきりと見える照明のLED化、土日祝の打ち放題メニューの設定、公式ホームページ・SNSの開設、キャッシュレス決済の導入、トイレ改修、バンカー練習場リニューアルなど15件を超える改善を矢継ぎ早に実行。次第に若い人を中心に新規顧客が増え始め、離れていた既存客も戻りつつあるという。
     直近半年間の売上高は前年同期比42%増、年次会員数は4倍の240人まで増加。昨年秋から月ベースで黒字転換を果たした。7月期決算は前年比倍の売上高6000万円を見込む。将来の目標は1億5000万円。夢は始まったばかり。

  • 2023年1月19日号
    人生の主人公

    新しい芽を大きく育てていくため、中国地域ニュービジネス大賞の表彰制度を創設。同協議会の内海良夫会長(データホライゾン社長)は、
    「受賞企業の事業内容はさまざまだが、社会や人、時代が何を求めているのか、ここに着眼した経営者の熱い思いがあり、本気で立ち向かった軌跡がある。全ては自分が源という覚悟が大切だと改めて気付かされる」
     将来を語り、ビジョンを実現させる情熱と能力を備え、世に役立つ気構えが根底にあると言う。過去30回のうち広島市内企業では、▷ダイイチ=インターネット利用による洋書販売、▷データホライゾン=保健事業支援システムとレセプト監査システムの開発・販売、▷テクノクラーツ=次世代アンダーカット形成ユニット装置「すっぽん」の開発・販売、▷アイグラン=サービス業の視点を取り入れて保護者ニーズに応えた保育事業の展開、▷福徳技研=ASRや塩害で劣化したコンクリート構造物の補修技術、▷キャンパスメディコ=固定化抗菌剤EtakとL8020乳酸菌特許によるライセンシングビジネスの展開。それぞれ成長を遂げている。株式上場の目標を立て、実現したデータホライゾンはレセプト解析技術を得意技とし、社会が求める医療費適正化とQOL向上に照準を合わせてデータヘルス関連サービスを全国展開する。しかし内海社長は創業から十数年は〝ボロボロ会社〟だったと話す。
    「入社後ようやく仕事を覚えてやっと戦力になったと思ったら会社を去っていく。この間休みなく働き詰め。例え社員の倍以上を働いたところで状況を一変させるほど力はなくあくせくするばかり。その頃、一倉定先生の社長学セミナーに参加したことが重大な転機になった。社長の仕事はどうあるべきか、事業経営における原理原則などを根本から学び直し、これを実践することに全力を傾けた。業績は好転し方向性が定まった」
     世の中が何を望んでいるのかキャッチし戦略を立てる。自然界に、水は高い所から低い所へ流れる原理原則があるように事業経営も外してはいけない原理原則がある。これを残らず実践していくうちに「出会い」の運も引き寄せたと明かす。さらに医療費適正化とQOL向上を突き進めようとインターネット関連大手のDeNAと資本・業務提携を締結。医療ビッグデータの二次利用も視野に入れながら新たな市場創出へ挑戦を始めている。
     同協議会は、経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援プログラムで中国エリアを対象とした「J‐Startup WEST」事業の事務局を中国経産局と共同で新年度から本格始動する。4月中旬に関連イベントを開く予定。ユニコーンや大学発ベンチャーを発掘し支援する。世界で戦い、勝てるスタートアップ企業を育み、革新的な技術やビジネスモデルで新しい価値の提供を目指してもらう狙いだ。
     内海社長はニュービジネス大賞30周年記念誌のはじめに「自己が 自己を 自己する」という禅語を紹介している。道元の経典「正法眼蔵」にある言葉で「私たちが今見ている世界は私たち自身・自らが考え、作り出し、そしてそれを自分自身で眺めているだけだ」と訳す。全ては自分が源。「自分の人生の主人公になる」という決意をその言葉に込める。起業家へ伝えたい勘所なのだろう。

  • 2023年1月12日号
    ユニコーンはいるか

    5月にG7広島サミットがある。世界から注目され、より世界を意識する新年になりそうだ。広島経済界も激動する世界情勢にどう立ち向かうのか、企業経営者の真価を発揮するチャンスである。
     獰猛(どうもう)で、他の生き物を傷つけたためノアの方舟から降ろされたユニコーン。一方で人を幸せに導くという伝説もある。額に1本の角を生やしたその生き物になぞらえ、米国や中国で脚光を浴びるユニコーン企業に触発されたのか、日本でも将来のユニコーン企業を発掘しようと躍起だ。
     米国のベンチャーキャピタル創業者が2013年ごろからユニコーン企業の造語を使い始めたといわれている。創業10年以内、時価総額10億ドル以上で、未上場のベンチャー企業を指す。投資先として巨額の利益をもたらす可能性に目をつけた。内閣府資料によると22年7月時点でユニコーン企業は世界に約1000社あり、うち米国633社、中国173社、日本は10社以内にとどまり、圧倒的な差である。チャンスと見るや一気呵成(かせい)に殺到し、何が何でも物にしようとする米国、中国に勇猛果敢な起業化精神があるのだろう。失敗を恐れて、起業するより大手に入る安定志向が強い日本の若者気質との差は大きく、さらに投資環境の違いなどから遅れをとっているのであれば、この岩盤をどう突き崩すのか。日本流の得意技を生かしながらひと工夫する、腕の見せどころではなかろうか。
     広島県は「ひろしまユニコーン10」プロジェクトを推し進める。向こう10年でユニコーン企業に匹敵する10社を創出する目標だ。昨年11月中旬に伴走型支援を行う「スタートアップアクセラレーション」挑戦者として12社を採択した。ベンチャーキャピタルや先輩起業家による個社ごとの面談や、早期成長を促すための「ファイナンス」「オープンイノベーション」勉強会ほか、投資家や事業会社とのマッチングイベントなどを計画する。
     その挑戦者はまだ一般的になじみの薄い、カタカナ社名の会社が多い。事業計画は宿泊施設の予約管理からマーケティングまでの一体的DX、マリーンレジャーなどの情報共有アプリ、予防医学に基づくスイーツ開発、訪問介護と高齢者向けIoT活用ヘルスケア、産業利用に適したゲノム編集とバイオDX、ECなどで訴求する動画作成ツールを一気通貫で提供といったテクノロジー開発や事業化をもくろむ観光、医療、環境分野などに及ぶ。3月に成果発表会を予定。挑戦者にとってワクワクドキドキする年が始まった。折に触れて成長の軌跡を本誌で紹介したい。
     こうした動きに先駆け、1989年設立された中国地域ニュービジネス協議会(内海良夫会長)は新たなビジネスチャンスに挑戦する企業の支援活動を続けている。従来とは違った発想、知識、技術などが得られるよう多種多様な異業種企業との出会いの場を提供し、化学反応を呼び起こす仕掛けだ。昨年秋、ニュービジネス大賞30周年記念誌「風」を発刊した。第1回の中村ブレイスから30回のまつえペイントまで受賞事業の現在、新しい事業、座右の銘などを紹介しながら経営のエッセンスをまとめる。その秘訣など次号で紹介したい。

  • 2022年12月15日号
    微差が大差

    9月にリニューアルした中区本通の「ひろしま夢ぷらざ」が好調に滑り出した。1999年3月に開業以来の大規模改装で集客力を高め、若い人や観光客などの新たな客層を開拓した。近年、年間売上高は3億5000万円内外で推移し、産直品を扱う量販店などに押され気味だったが、来店客が復活。いまはピークの5億円超を視野に入れる。中山間や島しょ部ほか、県全域の産品や地域情報の発信に知恵を絞り、思い切った売り場改善を実施。のぞいてみたくなる入りやすさ、ざっと店内を見渡せる開放感がある。
     出展事業者の商品開発や販路拡大に寄り添いながら産地と街をつなぐ実践的な仕掛けにも工夫を凝らす。高本統夫店長(61)は、
    「広島は海や山の自然の恵みが充実している。大消費地に向け、山海の幸や特産品を売り込む効果的な作戦を練り、官民一体のオール広島で取り組む一端を担いたい」
     広島修道大学商学部経営学科を卒業後、広島そごうに入社。94年の食品名店課係長を皮切りに食品畑一筋にバイヤーとして目利きの力を養った。2020年にそごう・西武本部で品質管理担当として食品衛生・表示を指導。21年1月に定年を迎えて再雇用を選択するさなか、経験を買われ、今年6月に店長に就く。百貨店時代は〝全国ブランドを広島で売る〟〝東京や大阪の人気食品を広島で味わう〟といった販売戦略を展開していた。
    「百貨店がその役割を果たし必要とされた全盛期は、例えば礼服一つ、同じ黒でもその違いが評価される時代。ファストファッションやネット販売が台頭し、所得が上がらない中で消費の構造が様変わりした。さらに長引くコロナ禍や物価高騰の影響が市場拡大を阻む。しかし地域の生産者や加工メーカーの良いものを一生懸命につくろうという気持ちを絶やしてはならない。本物は必ず生き残る」
     自らの体験で得た確信なのだろう。百貨店勤務で培った知見や幅広いネットワークなどを生かし、集客できる店づくりのポイントや目を引く売り場、買いたくなる売り場づくりに力を注ぐ。一方で出展者には〝良いもの、おいしいものをつくってさえいればいい〟という考えを改め、既存商品のブラッシュアップや食品表示の徹底を求める。
    「本気で大消費地に打って出るにはパッケージや表示をないがしろにできない。微差が大差になる。広島サミットを控え、インバウンドも次第に増えてくる。逃す手はない。海外へ打って出る気概で商品開発に挑戦する第一歩を踏み出してしてほしい」
     夢ぷらざは都会と産地が交差するプラットホーム。生産者にとって踏み台の役割も担う。第1弾で生カキを扱うマルヒロ水産(中区江波本町)の燻製オイル漬けカキの缶詰を商品化。保存料未使用で賞味期限を延ばした。2、3弾も仕込み中。ショールームや商談の場としても有効活用を図り、土産店や量販店などに売り込む〝BtoB〟にも目配りを欠かさない。地域を元気にするのが一番の目的だ。
     古里の景色に癒やされる。その心を宿し、街中で心身をリフレッシュさせてくれる夢ぷらざの価値は大きい。むろんG7広島サミットへの備えにも抜かりがない。

  • 2022年12月8日号
    マツダの電動化戦略

    製造業の世界的な半導体部品不足やコロナ禍によるサプライチェーンの乱れを受け、地域で開発し調達する「エコシステム」構築の機運が高まっている。電動化に待ったなしの自動車業界。将来、車載用電池の争奪戦に発展しかねない。マツダは独自の電動化戦略を描き、手を打った。
     新エネルギー・産業技術総合開発機構のグリーンイノベーション基金事業(実施期間2022〜30年度)に採択され、次世代高容量高入出力リチウムイオン電池の自社開発に乗り出す。30年時点の世界販売に占めるEV(電気自動車)比率はこれまで25%と想定していたが、40%に引き上げる。早速、8月には地元の部品メーカーなどと共同出資で電動駆動ユニットの開発会社を設立。基幹部品のシリコンカーバイドパワー半導体を含むインバーターも共同開発する。広島から独自性の強いEVを世に出す。丸本明社長は11月22日の記者会見でこれらの方針を打ち出し、決意を示した。
    「グローバリゼーション崩壊の兆候が明らかになり、多極化やブロック経済へと枠組みが変わりつつある。経済安全保障上の摩擦や分断と対立の顕在化など、経営環境は不透明。こうした中でも各国の電動化政策や環境規制を踏まえると、EV比率を高めていく必要がある。変化に柔軟に応じられるよう、三つのフェーズに分け、パートナー企業と共に電動化を加速する」
     EV時代への移行期間には内燃機関をはじめ補助モーター含む電動化技術、代替燃料をさまざまに組み合わせ、地域の電源事情に応じて適材適所で提供していく。第1フェーズはこのマルチ展開を中心に据え、第2フェーズで新しいハイブリッドシステムを導入する。電動化が先行する中国市場でEV専用車を投入し、それからEVの世界展開を開始。最終段階でEV専用車の本格導入を進め、電池生産への投資などをもくろむ。
     一方で、ガソリンエンジンなど内燃機関の製造に携わる企業はどうするのか。中国地方で内燃機関の製造従事者は約1万人に上り、無視できない。マツダは電動駆動ユニット関連の並行生産と段階的な業態転換を促す方針という。その第一歩として8月にオンド、広島アルミニウム工業、ヒロテックなどと三つの共同出資会社を設立。電動化計画の第2〜3フェーズに開発を完了させ、段階的に内燃機関専用の部品メーカーの生産品目移行が進むと予想する。
    「半導体と物流のひっ迫によって、原価低減やサプライチェーンの在り方も考え直さざるを得ない。材料調達からユーザーに商品を届けるまでの全工程で物がよどみなく流れるよう、スピードが最大化される『全体最適の工程』を実現する。部品を早く取り寄せるために、協力会社で連なる深い階層を浅くしなければならない。バリューチェーンとサプライチェーン全体に視野を広げ、ムダ・ムラ・ムリを徹底的に取り除く」
     他メーカーも電動化の自社開発を進める中、半導体部品の安定調達が鍵を握る。広島の公的機関が半導体関連の産業振興協議会やコンソーシアムを結成する動きもあり、新たな半導体企業を創出する可能性を秘める。ものづくりを得意とする広島産業にとってチャンス到来である。

  • 2022年12月1日号
    貯金いくらある

    アパレル業界では珍しい、地方発の高感度ショップとして最前線の銀座に出店し、勝負に出た。セレクトショップ「PARIGOT(パリゴ)」を展開するアクセ(尾道市)は、2025年に創業100年を迎える。呉服中心に肌着、紳士服を販売しながら地元で信用を築いてきたが、1992年からパリゴ事業に着手。1号店の尾道本店を皮切りに福山、広島、岡山、東京丸の内、横浜、松山へと店舗を広げ、2017年念願の銀座へ進出。世界の有名ファッションブランドがひしめく真っただ中に飛び込み、真価を問うた。
     パリゴ1号店から30年。22年7月期は過去最高の21億4700万円を売り上げ、経常利益1億4000万円を計上。業績は右肩上がり。有利子負債ゼロの日も近いが、過去には18年連続の赤字経営で倒産の危機にあえいだ。
     創業者で、祖父の髙垣繁太郎、母の美智子、兄の圭一朗(現会長)からバトンを受け8月1日、4代目に就いた孝久社長(53)は6人兄弟の次男で1969年1月18日生まれ。早稲田大学商学部卒。91年サントリーに入り、酒類小売規制緩和への動きが加速する中、コンビニチェーン本部営業などを担当。マーケットの広がりに面白さ、やりがいを感じていたが、家族から早く戻ってくるよう矢の催促があり、96年に取締役営業部長としてアクセに入った。
    「祖父と経営を引っ張ってきた父の剛士が47歳の若さで急逝し、会社は債務超過ギリギリの状態だった。実家に戻った時に母が最初に言ったのは『あんた貯金いくらある』だった。身の引き締まる思いがした」
     当時の売り上げは1億8000万円で、呉服事業が1億円、肌着や紳士服などが5000万円、パリゴ事業が3000万円。覚悟を決めて必死に働き、最初は一番ウエートの大きい呉服営業に力を入れる。あいさつも兼ねて取引先を回り、ご祝儀として買ってくれたものも含め、展示会では1週間で7000万円を売り上げた。
    「約20年ぶりの増収に心が躍ったが、すぐに来年の事が不安になった。一過性の7000万円をカバーするにはパリゴ事業に懸けるしかない。腹をくくるきっかけだった」
     尾道本店の売り上げを分析すると、7割が市外からの顧客で5割は福山市、残りの2割が広島や岡山、倉敷市だった。百貨店の美容部員などファッションのセミプロたちから支持されていることも分かった。都会から田舎に洋服を買いに来てくれることに未来への可能性を感じ、同時に地元の人に認めてもらいたいという思いも日増しに強くなった。パリの一流セレクトショップに感銘を受け、熱い思いが突き上げてきた。
    「尾道店の後、福山へ新規出店し、その後に尾道と福山を各2店舗体制。次第に出店戦略が軌道に乗り、商いが面白いと感じるようになった」
     売上高が4億円に達した2003年に広島市中区のアリスガーデン広場横に自社ビルを新築。融資額10億円。広島銀行がよく応じてくれたと話す。銀座の商業施設GINZA SIXのテナントのうち、いまではパリゴがフロア内の売り上げ上位。来年秋、東京へこれまでにない新しい形態の店を開く予定。全て夢から始まった。

  • 2022年11月24日号
    自慢の海の幸

    魚のプロが自慢する広島湾の海の幸。広島市や広島中央卸売市場は「広島湾七大海の幸」と称し、魚を食べるプロジェクトを本格化。生産量日本一のカキのほか、メバル、小イワシ、オニオコゼ、アサリ、クロダイ、アナゴのPR作戦を展開し、消費拡大をもくろむ。今年度は広島修道大学健康栄養学科の藤井文子教授や学生が協力し、海の幸を使ったレシピを考案。10月25日、同市場内の多目的スタジオで発表した。
     小イワシの磯辺唐揚げ、クロダイと小松菜のミルクスープ、コロコロ黒鯛コロッケ。6月から関係者らが毎月集まり、素材検討からアイデア出し試作、意見交換を重ねて当日の試食にこぎ着けた。今後は完成度を高め、学食や食品スーパーの総菜向けなどにつなげる構想だ。
     この取り組みは瀬戸内フードコミュニティー(略称SFC、栗栖恭一代表=上万糧食製粉所社長)が県中小企業団体中央会の支援を受け、中央卸売市場魚食普及委員会(望月亮委員長=ヒロスイ社長)と連携する「瀬戸内サスティナブルプロジェクト」の一環で推進。SFCは川中醤油、上万糧食製粉所、丸徳海苔、広島魚市場、よしの味噌、日東食品工業の6社が参画し、SISコンサルティング(澤田照久社長)の支援のもと、2018年4月立ち上げた。
     カキの養殖いかだが浮かぶ波静かな広島湾には太田川をはじめ、多くの河川から豊富な栄養素が流れ込む。魚介類の生息に恵まれた環境を備えており、カキや地魚を使った料理が親しまれてきた。DHAやEPAなどが含まれる水産物の健康効果として心筋梗塞、脳卒中、肝臓・膵臓がん予防のほか、知能指数を上昇させる効果もあるという(水産庁資料より)。しかし魚の消費量は近年、急速に減り続ける。このまま傍観していると漁業が衰退し、貴重な水産資源を失う危機感を背景に、全国的にさまざまな取り組みが始まっている。
     SFCメンバーの川中敬三さん(川中醤油会長)は、
    「瀬戸内の水産資源は乱獲などの影響も受け、魚の数が減っているという。持続可能な漁業を守り、水産資源を獲り続けられる、持続的に市場に出ていく。その二つの仕組みが求められている。食と食文化を資源とする瀬戸内フードツーリズムの取り組みと二人三脚で進めており、大きな効果を願っている」
     調味料などを扱う各6社の製品で瀬戸内海の水産資源の付加価値を高め、価格競争とは一線を画した新たな市場開拓を目指す構えだ。今回は市場内仲卸のヒロスイがクロダイを一口大の冷凍ブロックに加工して提供。日頃、魚を下ろす機会の少ない学生たちにとって扱いやすいと好評。既に一部スーパーへも卸す。課題が新たなビジネスチャンスを創り出す「地域コミュニティー」の力を発揮し、多様な発想と知恵、取り組みを集結するオール広島で活路を開いてもらいたい。
     今回のプロジェクトで学んだ学生が家庭で広島湾の魚を自慢し、親になって健康を育む家庭料理にいそしむ。ホテルの料理長、居酒屋の板前が「広島湾で育った魚介類は天下一品」と誇らしく話す。そして国内外から訪れた観光客が舌を巻く。来年のG7サミットは絶好のチャンス。